2013年1月30日水曜日

Saltillo/Monocyte

Saltilloことメントン・ジェイ・マシューズ3世(Menton J. Matthews III)さんのセカンドアルバム。
一個前のエントリThe Blood Of Heroesもそうですが、こちらのブログhttp://blog.livedoor.jp/sakuku992/archives/51893091.htmlの2012年ベストアルバムがきっかけで知ったアーティストです。これ知らなかった買わなかったよな~っていう自分の範囲外のアーティストに気づくっていいですよね。感謝です。

さてこのメントンさんはマルチなプレイヤーであるらしく、ベースやギター、ピアノだけでなくチェロやバイオリンも弾けるそうです。
ざっくりジャンルだと「ダウンテンポ」「トリップホップ」ということですが、要するに薄暗いテクノでして、そこにチェロやバイオリンなどのクラシカルな楽器が載ってくるわけですが、なにせバックトラックがしっかりかっこいいので、ただテクノにチェロ足してみました~という思いつきな音楽になっていない。すでにかっこいいテクノにチェロを掛け算というわけでまあすばらしいわけです。
聴き所はもちろん大変メランコリックな旋律を奏でる弦楽器なのですが、曲の中に妙なSEが入っていたり、大胆に女性ボーカルをフィーチャーしたりしてとてもバリエーションのある12曲で1枚のアルバムになっております。
う~ん、おすすめ。



The Blood of Heroes/The Waking Nightmare

元Napalm Deathで今はJesuだの何だのといろいろやっているジャスティンさんと、その筋ではとても有名(とのこと)なプロデューサーのビルさんという人を中心になっているバンドのセカンドアルバム。物々しいバンド名の元ネタはどうも映画らしいんだけど…
どうにもメタル・ダブステップというジャンルらしい。なんだろう?というとまあ、ダブステップに重たいギターリフをのっさり重ねた音楽で、なるほどこりゃ確かにメタルステップだね、というわりかし素直なジャンルですね、という印象。
ぼひゅっぼひゅっというドラムビート(曲によってはドラムンベースっぽいフレーズも)に、うねうねしたベース(きっとビルさんが弾いているに違いない)、全体的に音の像があいまいな電子音、ボーカルに関していうとそういった分野にまったく明るくないのですが、ラップというかそういった感じの黒人の人っぽい、ちょっといかがわしい感じで、全体的にはもうジャケットからわかるとおり、暗い感じなのだが、同じジャスティンさんがやっているGreymachineなんかに比べると悲惨さも少なく、そこまでマニアックな感じがしない。

ジャスティンさんに「メタルとダブステップくっつけました!名づけてメタルステップっすわ!」
といわれるとあなたは「えー!?」というでしょうが、まあ聴いてみてください。
あなたは「確かにね」というでしょう。
このアルバムのすごいところはあまりいい印象がないフレーズ「確かにね」のあとに「うーん、かっこいいな」と続くところです。お勧め。


2013年1月26日土曜日

チャールズ・ブコウスキー/ありきたりの狂気の物語

アメリカの詩人・作家の短編集。
人の勧めで読んでみた。
調べてみると破天荒な人だったようで、この本のほとんどの短編集が作者本人をモデルにしたような人たちが主人公。
どんな人かというと、大抵酒飲みで下品で貧しくて警官嫌いで競馬好きで女好きで口が悪くて態度が悪くて人と接するのが苦手で詩人。
こんな感じの人たちが、似たような下品な人たち、奇人、変人、金持ち、娼婦、警察官、自分の詩のファンたちと恋人になったり、口げんかしたり、険悪になったり、怒ったり怒られたり、小突いたり、殴られたりするわけです。
とにかく最初は下品な言葉に圧倒されるんだけど、汚い部屋、酒やけした声、執拗な警察官の笑い顔、窒息しそうな刑務所の独房、殺気立った競馬場、そんなところにふっとなんとく大切にしたい楽しさや余韻を残す物悲しさがぶっきらぼうにぼんっと明朗な文体で提示されたりする。
後半になるとその傾向が強くなるようで、前半乱暴に殴られて「うっはーひでー」と笑ってたのが「これはなかなかどうしてだぞ」となんとなく居住まいを正して読んでしまった。
ふらっと現れては人の邪魔をする人種を書いた「ペスト」などは思わずううむとうなってしまう。
ラビ志望の若者とのお酒を飲んで語り合う政治や戦争のことについての軽口をまじえたおしゃべりを書いた「静かなやりとり」の会話に見える知性はどうしたことだろう。
この本は人生について書かれている。どうしようもない毎日、酒びたりの。次第においてくる体とひどい背活の。何ガロンものビールと酩酊の向こうにある人生の。
人生は~だ、ということはたやすく、そうやって書いた小説はわかりやすくて面白い。この本はおおむね人生は糞だといっているが、実はそうじゃなくて、人生というのは本当にいろいろな思いがあってそのときそのとき一瞬でも実は楽しい悲しいだけじゃない、いろんな感情が一緒くたになってとても、簡単な言葉では言い表せないといっているようだ。
つまりこの本に直面するとなんていったらいいのかわからない。デフォルメされてない毎日が書かれているからだ。
圧倒されてしまう。そしてすごく面白い。

Khanate/Capture & Release

アメリカのドゥームメタルバンドの3rdアルバム。2005年発表。
sunn o)))のスティーブンさんがギタリスト。また、いろんなアルバムのマスタリングとかをやっているプロトキンさんがベースを弾いている。(どーでもいいんですがジャケットに乗っているメンバーの写真がみんな悪そうです。)
バンドは2006年に解散。

Khanateはだいぶ前にファーストアルバムを買ってそのあまりの遅さに辟易して、しばらくほったらかしにしていたのだが、それでもぼんやりと何回か聴いている内に急に大好きに。
いつでも聴ける軽いアルバムではないが、気分にはまれば最高。
2ndアルバムThings Viralと解散後にリリースされたClean Hands Go Foulを購入したのだが、(ほかにも何枚かすごーーくレアな音源が出ているけど僕は持ってない。)なぜだかこの3rdアルバムだけどこにも売ってなくて、まったく期待せずにamazonで頼んだら5ヶ月くらいたって急に届いた。

Khanateは1stが音楽的には一番わかりやすくて、だんだんドローンとか、即興性みたいな(印象です)ちょっと実験的な要素が強くなっていったバンドで、ギターの音も一貫して重いのだけど、バズーだったのがジャギャーン、ブゥオーとかそういう風に変わっていった(印象です)。

このCapture & Releaseは2曲のみ収録で、1曲目が18分、2曲目が25分なので、曲の方もまあだいたい普通じゃない感じね、とわかっていただけるかと思います。
2曲ともに当然音はでかくて重いのだが、曲の長さからいったら音の数が少ないし、静かなパートも結構長い。ただしアンビエントというよりは嵐の前の静けさというか、危険な予兆をはらんでいる感じで結構気が抜けない。
とにかくこのバンドで大好きなのが、ギターのフィードバック音なのだが本作品でもそれが遺憾なく発揮されていてグワアアーぼぼぼぼぼーひぃいいいーーーじゃあああああーといった感じで個人的にはこのひぃいいいーーって所がもうたまらん。
吐き出すような搾り出すような不快感マックスのボーカルが繰り替えす(同じフレーズが何回も出てくる)ボーカルも大好き。
とってもお勧め。


2013年1月20日日曜日

Interment/Into the Crypts of Blasphemy

スウェーデンのオールドスクールデスメタルバンドの2010年発表ファーストアルバム。
ファーストアルバムといっても結成はなんと1988年で、(結成当初のバンド名は今のとは異なっていたようだ。)中断をはさみつつも活動を続けていたベテランバンドということらしい。
アルバム名を訳すと「冒涜の地下室へ」という感じだろうか。なんとなくクトゥルーっぽさをかもし出していてよい感じである。
音のほうはいわゆるスウィデッシュ・デスというのだろうか。
ズタズタしたドラムが曲を引っ張って、圧の大きい音の粒が粗いギターが不吉なリフをかなでる。ベースはこれまた音圧が大きく、ブオブオうなるようだ。ボーカルはデス声というよりは、凄みのある吐き出すような感じで迫力満点。
馬鹿っ速さが強調されているわけではないがとにかく重たーい音の密度が濃くてブルドーザーのよう。途中でスピードを落としたりして飽きさせない曲展開。うおお、って思ってると1曲が終わってしまって気持ちいいったらない。
曲頭でホラー調のSEが短く挿入されていたりしてケレン味もあるのだが、B級ということはまったくなく、まじめなデスメタルという印象。
派手さはないが、とてもお勧め。


レイ・ブラッドベリ/二人がここにいる不思議

昨年亡くなった巨匠ブラッドベリの短編集。
まずタイトルがすごくいい。タイトル買い。
1988年に出版されたようだ。
ブラッドベリは、えーと、火星年代記、十月はたそがれの国、何かが道をやってくる、華氏451度を読んだことがあるからこの本で5冊目。
レイ・ブラッドベリというとSF!というよりは(今まで読んだ4冊の本によるところがお起きのだろうけれども)幻想作家という認識で、この本を読んでさらにそのその感が強まった。
23篇の短編が収められていてSF要素の濃い作品ももちろんあるけど、ほとんどが日常の延長線上のぼんやりとしたその先にあるような不思議な話や、あるいはふっとした陰に潜んでいるようなちょっと怖い作品ばかり。

ローレル・アンド・ハーディ恋愛騒動
ローレルとハーディとは昔の映画俳優らしい。お互いにローレル、ハーディと呼び合う恋人の出会いから別れ、そしてその先を書いた作品でとにかくラストがいい。切ないのにほっーとさせる。
全部で20ページないし、お互いの本名も出てこないのに、2人に個性があって、読んでると彼らが好きになる。 すごい。不思議。

さよなら、ラファイエット
ラファイエットとは第一次世界大戦で活躍したアメリカの志願兵で構成されたフランスの空軍とのこと。
作家の主人公の隣に住む老人はそのラファイエット隊の生き残りで、 夜毎ドイツ兵が飛行機に乗って彼を訪れるという。
普通なら呆けた、または(彼は英雄であって、つまり敵対するドイツの兵士たちと飛行機で戦ってたくさん殺した)罪の意識から病んだ、と説明がつくところが、ブラッドベリの筆致にかかるとこれがまたすばらしい贖罪の物語になるから、すごい。不思議。
きにいったフレーズがあったのでここに記す。
「(前略)なんてこったい。ひどいもんだ。悲しいことだ。どうしたら救ってやれるだろう。 戻っていってやりたいよ。ほんとうにすまん。あれは起こってはならんことだった。みなが呑気でいた時分に、誰かが忠告してくれなきゃいけなかったんだ。戦争ってのは死ぬことじゃなくて、思い出すことだ。終わってすぐどころか、ずっと後になってまで思い出すことだと。みんな悪くおもわんでくれ。そいつをどうやって言う、つぎの手をどう打つ?」

2013年1月12日土曜日

Worship/Last Vinyl Before Dooms Day






ドイツのフューネラルドゥームバンドの1999年発表作。
doom-mantra recordsから666枚限定で再発されたもので、グレースプラッター。
ふらーっとはいったデイスクユニオンで購入。
タイトルの由来は当時メンバーだったFucked-up Mad Maxさんが亡くなってしまったため、バンド最後ということで名づけたらしい。(ただしその後バンドは再始動している。)
そういう逸話もあってか、ドゥーム界隈ではとても有名なバンド。前から気になってはいたので購入しました。
そもそもフューネラルドゥームって何でしょう。
wikipediaによると
デス・ドゥームをより強烈に発展させたもの。際立って遅いテンポ、極端なダウンチューニングによる非常に重苦しい音が特徴で、鬱、破滅、死といったテーマを際立たせる。('funeral'とは「葬式」を指す。)Skepticism、Thergothonなどによって確立された。Norttのようにダーク・アンビエントからの影響でシンセサイザーを用いたり、思想的にブラック・メタルと融合しているバンドもある。
とのこと。

曲のほうは重苦しいギターが、これまた重苦しくかき鳴らされ、ドスッ、バスッとドラムが思い出したように叩かれ、うなる様な抉る様なデス声がのっかるという地獄のような展開。
ただし単調ということではなく、要所要所に鐘の音やピアノ、アコースティックギターの音色がフィーチャされていて飽きさせない。そして何より、メロディがめちゃ美しい。 美しいといっても明るいわけがない、真っ暗である。陰鬱だ。救いがない。だけどずわーっと心に染み入ってくる。
音の残り、残響というのだろうか、がまた泣きたくなるくらいすばらしい。
過激なジャンルであることは間違いないけど、デスメタルみたいに「殺してやる」というような他人がいない世界。真っ暗な夜明けに寒い丘の上に立って途方にくれているような、そんな音楽です。

ドン・ウィンズロウ/フランキー・マシーンの冬






「犬の力」があんまり面白かったもんで、同じ作者が「犬の力」の後に発表した本を購入。

主人公フランク・マシアーノは62歳、サンディエゴの海沿いに住んでいて、釣具屋、リネンレンタル業などを営み、仕事の合間にはサーフィンを楽しむ。地元の人間にはとても愛されていて、離婚したけど今は恋人がいて、またわかれた妻との間に生まれた娘との関係もよい。
ある日、昔の”仕事”の関係者から懇願されたフランクはやむにやまれない事情から引退したはずの”仕事”の手伝いをすることになるが、交渉の場で殺されかけてしまう。
今は餌屋を営むフランクは「フランキー・マシーン」と呼ばれるイタリア系マフィアの殺し屋だった。
あっさり襲撃者2人を返り討ちにしたフランキー・マシーン、きれいに足を洗った後に手に入れた平穏な生活をこよなく愛する彼には殺される理由がわからない。
追っ手から逃つつもフランクは狙われる理由をはっきりさせ黒幕を突き止めようとするが…

フランキーのこらまた血煙にまみれた逃走劇とマフィア時代の回想が同時進行で展開される。
マフィアの世界とは不思議なもので何か事を起こそうとすると、仁義だ何だとうるさいことを言われるくせに、みんな裏ではお互いを欺いたり出し抜こうと苦心している。
大きな矛盾をきれいごとのラベルで包むのは、今も昔もやくざもかたぎも変わらんのか問い浮きもするけれど、そんな陰謀渦巻くマフィアの世界でも自分の道理を貫いて、冷酷な殺し屋ではあるけど”汚い仕事”に手を染めない男気あふれるフランキーがとてもかっこいい。
フランキーは自分でもがんばって、また運がよくて堅気になれた。フランキーは今を愛しているけど、マフィアの仕事にどっぷり使って抜け出せない、そして今はもう老いてしまった登場人物たちが口をそろえて「昔はよかったな、フランキー」というのが悲しい。

この本も暴力と裏切りあいがせめぎあっているけれど、犬の力と違って渺茫とした暴力の果ての地平が描かれていない。
個人的な問題が根底にあって、家族と堅気の生活を守りたいという主人公のポジティブさが物語を明るいものにしている。
映画を見ているような冒険活劇でとても面白かった。

2013年1月5日土曜日

ドン・ウィンズロウ/犬の力


米国-南米間の30年に及ぶ血で血を洗う麻薬抗争を描いた作品。
麻薬取締局捜査官、南米カルテルのボス、アメリカの殺し屋、カトリックの司祭、高級娼婦、多様なキャラクターがアメリカ大陸の麻薬をめぐって縦横無尽に紙上を駆け巡る。
ある意味主役は麻薬で、巨大な富を生む麻薬に取り付かれた人たちの物語といえるかもしれない。そうして麻薬は暴力を常に暴力を伴う。不思議なタイトル「犬の力」は聖書の詩篇から取られたそうで、獣のような純粋な「暴力」のことなのかも。(あとがきだとちょっと違った解釈だった。)
プロローグから尋常じゃない暴力の描写がいやになるくらい詰め込まれていて、文字通り目を離したくなるような、痛い、ひどい、残酷な力の執行が、銃で、刃物で、爆発物で、薬物で、素手で、自然災害で、路上で、地下室で、大人に、子供に、女に、老人に、暗殺だの拷問だのあらゆる形で繰り広げられる。
それらが当事者の視点で丁寧に描かれているものだから、痛さがリアルに想像できて恐ろしい。
さらに恐ろしいのはこれらの暴力のすべてが決して短絡的なものではないことだ。
すさまじい暴力の裏にはその暴力が現出する要因たる姦計が、策略がある。
たくさんの暴力は計算され、最大限の効果をあげるように周到に用意された結果引き起こされている。南米の青い空と輝く太陽の下で振るわれる暴力は、元をたどると実は冷房の効いたアメリカの会議室で生み出されたものだったりする。行為を伴わない暴力というのは、恐ろしい。現実感がなくとても無慈悲だ。国家レベルの思惑においては人の命はとても軽い。
この小説は麻薬を発端とする国家規模の問題にフォーカスしたマクロ視点と、登場人物一人ひとりのそれこそ生活まで丁寧に描く(=国家規模の問題を個人のそれにまで落としこんでいる)ミクロの視点があってそれが双方ともにものすごーく丁寧に書かれている。

躊躇なく子供を殺し、敵対者をわなにかけるモンスターのような登場人物も、同時に奥さんと家族を溺愛していて、離れて暮らしている子供とチャットすることを何より大切にしていたりする。当たり前の話だが、彼らは人間であることが意図的に明示されている。
ただの麻薬商人というキャラクターじゃあなくて、一人の人間として書かれているものだから、視点が変わるごとに感情移入してしまう。 へんな言い方だが、出てくる人間で一人もろくなやつはいないが、出てくる全員がとても魅力的なのだ。

久しぶりに夜通し本を読んだ。
読んでて声が出てしまう本というのはたいてい面白い。
とてもすばらしい時間で何にも変えがたい。2013年もたくさん本を読みたい。