2013年2月2日土曜日

ドン・ウィンズロウ/ストリート・キッズ

昨年末からはまっているドン・ウィンズロウさんの本。
どうもこれが彼のデビュー作っぽい。
前の読んだ2作品とはちょっと気色が異なる。何って主人公が若い。若いってところが問題で、若いと大人とすんでいる世界が違うからおのずと物語も違ってくるんだと思った。
1,976年元ストリート・キッズのニール・ケアリーは大学院に通う傍ら探偵業を、いや探偵業を営む傍ら大学院に通っている。ある日彼が父と呼ぶジョーから仕事が舞い込む。次期副大統領候補の素行不良の娘アリーが家出をした。党の全国大会までに彼女を取り戻すのだ。期限は3か月弱。ニールは最後に彼女が目撃されたのはロンドンに飛ぶ。
というお話。
ジャンルは一応ハードボイルドということになるのだろうか。
ストリート・キッズというのはホームレスの子らしい。主人公ニールは父親がいなく(ジョーは父親代わり)で、母親は麻薬中毒の売春婦だった。若くして犯罪行為に手を染めていたニールはジョーと出会うことでたくましく明るく成長することができた(とはいえもちろん幸せいっぱいに順風満帆に育ったわけはない)けど、やっぱり自分の家族の問題が人格の形成に暗い影を落としているようだ。
ニールはジョーに仕込まれただけでなく生まれ持った才覚もあってか若くして探偵としての技術は一流だけど、まだ大人になりきれていないから仕事にどうしても若さが出てしまう。個人的な問題と今の仕事を切り離すことができないし、孤独感を抱え込んでいて恋人との間にも一枚壁のようなものを作ってしまう癖に敵でも味方でも探偵として付き合うことができない。頭がいいのに馬鹿にされるとついかっとなって言い返してしまう。
要するに不器用な青い奴なのだが、そこがいい。引き受けた仕事は”自分”の仕事になってしまう。
一方与えられた仕事はまったくもって大人の事情で動いている。情報には裏があるし、まったく真実でない場合もある。ニールは探偵業を自分で選んでやっているわけではない。否が応でも巨大な意志の手先になって動かなければならない。
この対立がドラマになる。犬の力のケラーやフランキーマシーンの冬のフランキーとは違う。完全な汚れ仕事を任務達成のため平然とやってのける冷酷さや、清濁併せのんだ老獪さがニールにはない。過酷な仕事に真っ正直に体当たりで血だらけでボロボロになっても食いついていく。ここの書き方が巧みで、読んでいるこちらとしては主人公を応援したくなってしまう。失敗すらいとおしい。何やってるんだよーともうこれはサポータのようだ。

そしてやはりこの本にも麻薬が出てくる。変な順番で読んでるけどこの著者の本には今のところ必ず麻薬が出てくる。僕は麻薬をやったことがないので詳しくは知らないが、かなり生々しく描写されているように感じる。はっきりと明言されているわけではないので印象だけどウィンズロウさんは麻薬がとても嫌いなのだろうと思う。嫌いというか激しく憎んでいるのではないだろうか。麻薬の持つある種の華々しさを描く一方、必ず仮借のない麻薬の持つ負の面を欠いて売る人、買う人、使う人麻薬に巻き込まれた人々の悲惨さを執念深く書き込んでいるからだ。

前にも書いたけど大人の世界で奮闘する子供の話、なんでも素手で触るからすぐに傷ついてしまう。ラストはとても切ない。
面白かった。
ニール・ケアリーシリーズといってこの後も何冊が出ているようだから読んでみようと思っています。

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