2013年3月3日日曜日

トム・ロブ・スミス/チャイルド44


イギリスの作家トム・ロブ・スミスのデビュー作。
2008年発表。和訳版は2009年版このミステリーがすごい海外編の堂々第一位。

1950年代、ロシア連邦になる前のソビエト連邦、最高指導者はヨシフ・スターリン。
主人公レオ・デミドフはKGBの前身である組織・国家保安省に務め、国家に奉仕する捜査官。
容姿端麗の屈強とした元軍人で、上司の覚えめでたく、家に帰れば美人の妻が待っているという、体制にくみする勝ち組モテ国家公務員。
共産主義による完全な国家に思うところがないわけではないが、国家と職務に対する親愛篤く、現状に不満があるべくもない。
ある日部下の子供が不審な死を遂げるが、レオは悲しむ彼とその親族に対して完全な国家には殺人犯という異端者は存在しないはずなので、殺人というは決して起こらないのだと説得する。
その後脱走したスパイ犯を極寒の凍った川に飛び込み辛くもとらえるレオ。這う這うの体でモスクワに帰投する。しかし取調べの中でスパイ犯が無実であることを知ってしまう。レオはショックと体調不良もあり、倒れてしまう。
回復したレオを待つのはしかし妻にかけられたスパイ容疑だった。
自ら妻の潔白を証明しようとしたレオは国家保安省を追われ、当時は無能者の掃き溜めである片田舎の民警に追放される。任地で子供の死体を発見するレオ。その死にざまはかつての部下の子供のそれと寸分たがわないものだった。
すべてを失ったレオは独自に捜査を開始する。

以上があらすじです。かなり丁寧に書きました。ほぼ上巻のすべてですね。なぜ書いた、といわれるかもしれませんが、この物語、サスペンスとしても超一級ですが、根底にあるのは罪とその贖罪がテーマだからだと私は感じたからです。そこについて私は書きたい。
主人公レオは今まで国家に奉仕してきて自分の境遇に疑問を持たなかった。たくさんの人を国家反逆者として死に追いやったが、彼は殺人狂ではない。それをできたのはひとえに彼らが異端者だからでした。レオは国家とそこに属する人民とそして妻のために戦っていたのでした。レオはそういった意味では盲信者ではありませんでした。良くも悪くも純粋で自分と職務と国家を自分なりに信奉していたのでした。しかしとらえたスパイ犯が無実であることを知ったレオは、その単純な性格ゆえに、正しいと思っていたのに実は異常だった状況に自分を順応させることができませんでした。そうしてすべてを失ってしまったのです。
レオはこの時点で大量殺人者になってしまった。落ちぶれた先で完璧なはずの国家のほころびと民衆のひどい暮らしを目の当たりにした彼は、以前歯牙にかけるどころか、その存在すら否定した子供たちへの大量殺人に立ち向かうことになります。これが彼の、彼なりの贖罪なのでした。 しかし彼の罪はほとんどが殺人でした。本当に償うべき相手はもうこの世にはいないのです。報われない贖罪を、彼は周りすべてが敵である状況で、絶望的に進めていくのです。
読み進めるのを躊躇したくなるくらいレオは、これでもかと痛めつけられます。報われないこの戦いの末には何も残らないのではないのか?と暗い気持ちになります。
それでもこれは人が生まれ変わる話です。罪は消えないけど、人は生き続けなければならない。否定するのではなく、罪を犯した自分を自分で許さなければいけない。ここに関しては書きすぎてもこの本を通して作者が言いたいことを、私が伝えきることはできないと思います。ぜひ読んでください。
重い話ばかり書いてきましたが、この本、重すぎるテーマを内包しつつ超一流のエンターテインメントです。孤軍奮闘し追われるレオ、包囲網が知事まりながらも犯人を追いつめるサスペンス。手に汗握ります。
また個人的にはスターリンによる独裁体制下のソ連についてほとんど無知だったので、その凄まじい状況を知れたのも楽しみの一つでした。意外に知らないんですよね、ソ連。

というわけでおすすめです。読んでみてね。

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