2013年3月10日日曜日

ドン・ウィンズロウ/夜明けのパトロール


映画「野蛮な奴ら」が日本でも公開開始された売れっ子ドン・ウィンズロウさんの新シリーズ第1作目。
今度はなんとサーフ・ノワールだという。ノワールというといわゆる暗黒小説。ギャングやマフィアなどが跋扈する社会の暗部を暴力満点で描写するジャンルだと思うんだけど、それの頭につくのがサーフだ。サーフはボードで波に乗るあのサーフィンのことです。 舞台はカリフォルニアとくれば暗黒どころではない。陽光燦々たる一大天国である。しかしどんなに明るい天国にも真っ黒い闇を抱えているもの。ここの恐るべきく対比を見事に描き切ったドン・ウィンズロウさんはさすがと言わざるを得ない。

カリフォルニア州はサンディエゴ、元警察官のブーン・ダニエルズは今は探偵業、というよりサーファー。お金が無くなったら探偵業を請け負っているけれども、生活の中心はやっぱりサーフィン。ブーンにとっては海こそすべて。
気の合う仲間5人と毎日ドーン(夜明け)パトロールと呼ばれる早朝サーフィンに繰り出す。水難救助員、殺人課刑事、公共事業現場監督、サーフショップ店員、プロを目指すサーファー、商業は違えどかけがえのない仲間(ブーンを入れた6人で「ドーンパトロール」というチーム。)に囲まれていて、自身もサーフィンの腕で地元では一目置かれているブーン。
そんなある日ブーンのもとに美人な弁護士からストリッパーを探す依頼が舞い込む。ところが探すはずのストリッパーは死亡。ブーンはただのストリッパーの失踪からサンディエゴが抱える闇の部分に迫っていくことになる。

あらすじを見るとサーフノワール問ジャンルについて少し見当がついたのではないかと。そのままサーファーが探偵をするんです。だから「犬の力」なんかとは違って物語はカリフォルニア州の太陽のもと軽快に進みます。会話どころか地の分もすべての文章が軽口調でその読みさすさ、軽妙さといったらない。かなり頻繁に土地の歴史の講釈が入るのだけれども、並みの小説では退屈なここの部分すら読んでいてとても面白い。とにかく徹底的に読み手のことを考えて書かれた文章だなという印象。
もちろんウィンズロウさんのことなのでしっかりノワールをやるのだが、陰惨な描写ですらテンポがよく、その対比によって残酷さの引き立つことったらない。やっぱりこの作者は文章力がずば抜けていると思う。原文で読んだらさぞかしすごいんじゃなかろうか。

さて読みやすさもさることながら、小説の中身も素晴らしいです。
個性的なキャラクターはまるで漫画のようにキャラクターが立っているが、小手先のキャラ立ちなどは一切なし。それぞれがそれぞれの人生にピタリとはまっている感じ。
作者の持ち味、2点3点するストーリーはこの作品でも健在で、終盤まで物語が最後までどこに着陸するのか全く予想がつかない。ただ面白いなと思ったのは、この作品主人公ブーンが感じる違和感を読者も一緒に体感でいるところ。基本はブーン(たまに敵役)の視点で捜査が進んでいくのだけど、よく考えるとつじつまが合わなかったりするところが、結構わかりやすく提示されている。だから物語が進んでいくにつれて「何か変だぞ」となった疑問が、ある地点で回答が提示されてぴったりはまった時の気持ち良さったらないわけです。

ノワールの部分も文句なし!この作品の場合ジェットコースターでも気づいたらあたりの景色が一変して地獄についてました、というのとは違う。周りの景色はあくまでも楽園のようなサンディエゴなのだけど、そこに同時に存在する邪悪が、物語が進むにつれて、まさに白日の下にさらけ出されるわけです。ここの部分は是非!読んでみてください。文句なしにおすすめ。



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