2013年8月11日日曜日

ディーン・クーンツ/フランケンシュタイン 野望

アメリカの作家でキングと肩を並べる近代ホラー小説界の巨匠。
なのだが、恥ずかしながら私は今まで読んだことがなかった。
そろそろ一冊読んでみようと題名をみてみると何とフランケンシュタインとあるではないか!とほとんど署名だけで購入したのがこの一冊。シリーズ物の1作目で絶賛続刊が刊行中とのこと。
フランケンシュタインというとメアリ・シェリーのあの「フランケンシュタイン または現代のプロメテウス」である。ホラー小説の古典で私が読んだのは学生の頃だった。そのときはフランケンシュタインというのが頭に釘が刺さり、つなぎ目のある顔を青ざめさせた巨人のことだと思っていた。未だに同じ勘違いをしている方もいるかもしれませんが、フランケンシュタインというのは人間の科学者のことで、醜悪な巨人には名前がない。
私はその面白さに心底感動したものだ。一体これは悲劇なのかあるいは過激な喜劇なのかと首を傾げた。

さてアメリカのホラー界の巨匠がフランケンシュタインを題材にとったとあらばこれは読むしかないのである。

現代アメリカはニュージャージー州で殺人が発生。被害者は殺された上に手、眼球、内蔵など体の一部を持ち去られていた。殺人課の刑事カーソンは相棒のマイクルと捜査に乗り出す。
一方チベットの奥地の寺に身を置く巨人は死んだはずの仇敵が生きていることを知りアメリカに旅立つのだった…

元はと言えばテレビ用にクーンツが書いたものが紆余曲折を経て本人によるリメイクとなったのが今作らしい。
基本は現代を舞台にフランケンシュタインと怪物(本作ではデュカリオンと名乗っている。)が軸になるのだが、そこにいろいろな脇役が登場し物語を盛り上げる。連続殺人鬼、人造人間とかなり多岐にわたる彼らに視点が行き来し、めまぐるしく話が展開していく様はさすが巨匠による筆致というべきか。
私が何よりもまして気に入ったのが、ヴィクター・ヘリオスこと(この話の中でもメアリ・シェリーの小説は存在しているので偽名を使っている)ヴィクター・フランケンシュタインのキャラクターである。シェリーのフランケンシュタインは傲り高ぶった若者だった。神の領域に踏む込み、身勝手にも死体に命を吹き込んだ。悲劇が生まれフランケンシュタインは婚約者を始め大切な人々を失って、最後は巨人を追って南極に旅立ったのである。この時点ではフランケンシュタインは悪人ではなかった。おごっていたものの純粋に科学の最先端にその好奇心と勤勉さでもって勇敢にも切り込んでいった。ただ間抜けで腰抜けだった。出来上がったフランケンシュタインに恐れをなして、愚かにも婚約者すら殺されてしまった。シェリーの物語をどうとるかというのは本当に人それぞれいろいろあると思う。私がある意味喜劇だといったのは、このフランケンシュタインの行動があまりに情けなかったからだ。そもそも悪役に肩入れしてしまう私なので、どちらかというと醜く生まれたのに純粋な心を持つ(だからといって100%善人だとは思わない。人も殺すし。)巨人を応援したくなってしまった。
さて、本作のフランケンシュタインは天才を発揮し大金持ちになっている。相変わらず人造人間の制作に精を出し、彼らを新人類と読んで世界を乗っ取ろうと画策しているのである。馬鹿である。相変わらずこいつは傲慢で、そして愚かである。シェリーのときはそれでも純粋なところがあって共感できたが、今作では完全な悪役になっている。

原作の持ついいところを活かしつつ、独自の要素(何より舞台を現代にしているところが素晴らしい)を取り入れてエンターテインメント性マシマシ。
今回は続き物の1冊目ということもあり、各キャラクターが出そろい物語が動き始めるところまで。既にいろいろな謎がちりばめられていて続きが気になるところ。

シェリーのフランケンシュタインが好きな人は是非どうぞ。

0 件のコメント:

コメントを投稿