2013年8月4日日曜日

R・E・ワインバーグ&M・H・グリーンバーグ編/ラブクラフトの遺産

タイトルをみれば一目で分かると思う。
東京創元社より出版されたクトゥルーもののアンソロジー。
「サイコ」の作者として広く知られているラブクラフトの弟子ロバート・ブロック(17歳の時にラブクラフトと文通を始めた。なんと年の差は27!)のラブクラフトに当てた手紙から始まり、タイタス・クロウシリーズのブライアン・ラムレイ、SF作家のジーン・ウルフ、この間紹介したF・P・ウィルスンなど既にその筋で大家とされる面々が名を連ねる恐ろしい短編集。恐らくおのおのの作家が短編集用に書き下ろしていると思われる。勿論テーマはクトゥルー神話である。創始者であるラブクラフトの生誕100周年を記念し、彼の衣鉢を継ぐ彼らは言わばその遺産の相続人である、というコンセプトで14編がおさめられている。まさにラブクラフトの遺産ともいうべき正統的な短編は勿論、作家なりのクトゥルー神話への解釈をもって書かれた一風変わった短編も収録されている。そうはいっても根底にはラブクラフトと彼の生み出した物語への愛と敬意があるからか、コアなクトゥルーマニアにも受け入れること請け合い。
編集者の2人に関しては私は知らなかったけどその道では知られた評論家・学者・アンソロジストだそうな。日本版の解説は朝松健さんが書いており、解説も含めて堂々599ページの一大ホラー絵巻である。
結論から言うとこの本、非常に楽しめて読めた。面白さでいったらここ一番で、アンソロジーとしてはクトゥルーものは勿論、ホラーのジャンルでも比類なきクオリティ。なぜもっと速く読まなかったのかと自分でも疑問に思ったくらい。やっぱりクトゥルー神話は面白い。なるほどこの世に生を受けて多数の作家や創造物の中で扱われ続けているけど、その中核は全く色あせない。そればかりか常に新しい作品が生み出されていることで神話の多様性は増し続けているのではなかろうか。

中でも特に気に入った作品をご紹介。
▼グレアム・マスタートン「シェークスピア奇譚」
ロンドンはサザック区ではシェークスピアの初演劇場「グローブ座」の発掘作業が進められていた。ある日現場から男の死体が発見され、翌日発見者である主人公の友人が惨殺された。主人公はグローブ座とシェークスピアの過去について紐解いていく。誰が友人を殺したのか、そして謎の死体の正体は…
シェークスピアにまつわる実話を見事にコズミックホラーと融合させた作品。化け物の恐ろしさもさることながら、真相の究明を主眼にした探偵小説のようにも読めて楽しい。
▼ブライアン・マクノートン「食屍姫メリフィリア」
孤独を好み墓地を練り歩いてた変わり者の少女メリフィリアは若くして亡くなり、死後は墓地に住み人間の死体を食い荒らす食屍鬼となった。ある日メリフィリアは惚れた人間のために絶世の美女の墓所に忍び込むが…
ティム・バートンのアニメ映画のような趣がある変わった作品。凄惨な描写があるのに全体的にほんわかした印象のあるまさにメルヘンな一遍。ラストは切ない。
▼F・P・ウィルスン「荒地」
ニュージャージー州で小さい会計事務所を営む主人公の前に、かつての恋人が現れる。かつていかれたクレイトンと呼ばれた彼はジャージー・デビルの伝説を調べているのに協力してほしいと頼む。しぶしぶ承諾した主人公は、クレイトンとパインレインズと呼ばれる広大な荒地に踏み込むが…
ラブクラフトの創出したクトゥルー神話を飲み込みつつ、この作家ならではの新しい要素を取り入れた文句なしの名作。見捨てられ荒廃した地にまつわる忌まわしい伝説という設定だけでぞくぞくする。オチの付け方も完璧。

クトゥルーファンを自称するなら読んでおいて損はない、というか絶対読むべき。
ホラー小説ファンも是非手に取っていただきたい。
クトゥルーってよく聴くけどどこから手をつけていいのか分からん、という人にも入門としてお勧めできる文句なしの名アンソロジーです!

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