2013年11月4日月曜日

ユッシ・エーズラ・オールスン/特捜部Q カルテ番号64

北欧はデンマーク、コペンハーゲンの作家による警察小説。
特捜部Qシリーズの第4弾。前作からちょっと間が空いてしまった。この本はデンマークを代表する文学賞である「金の月桂樹賞」という由緒ある賞を受賞したそうな。
このシリーズはなんと世界36カ国で出版されているとのこと。人気のほどが伺われる。
本の裏表紙に載っている写真を見て作者は渋い強面かと思ったら、意外に優しそうなおじちゃんでした。

コペンハーゲン警察署の地下室にある未解決事件のみを扱う部署・特捜部Q。
メンバーはとある事件で同僚一人を失い、一人は半身不随となり、自身も心身ともに傷を負ったカール・マーク。
謎のシリア系移民アサド。多重人格が疑われる変わり者の女性ローセ。
3人は1987年のある時期に集中した複数の失踪事件の調査に乗り出すが、その背後にはデンマークにかつて存在したとあるおぞましい施設が関わっていて…

過去の3作と同様今作も、おぞましい事件とカールら特捜部Qの面々の軽妙なやり取りのバランスが冴える。カールは終始ぼやき、怒り、叫びながら陰惨な事件に立ち向かう訳だが、相変わらず敵役のキャラ造形がすばらしく、そびえ立つクソの山かというほどの胸くそ悪いサイコ野郎な訳だ。一体この作者というのは自己中マックスで他人への共感能力ゼロの悪役を書くことに関しては昨今右に出るものがないのではなかろうか。
逆恨みストーカー、ねじの外れたボンボン、メソメソトラウマ依存反動マッチョときて、今回は齢88歳の選民思想こってりファシスト医者クソやろうとくるのだから、ページをめくるこちらとしては腹が立ってしょうがない訳である。だいたい悪役がすばらしい作品は良作と決まっているのだから、今回も前3作と比較して全く引けを取らない面白さ。

さて、悪役が完全に悪者だと物語が平板すぎる恐れがあることはわかってもらえると思う。俺正義の体現者、悪者をばこーん、読者スッキリ、というのももちろん面白いのだが、イマイチ深みにかけるのも事実ではないだろうか。
そこにくるとこのユッシおじさんときたら、物語の構成がとても巧みで一連のシリーズの中で常に悪者とそれに立ち向かう正義の警察官カールらのほかに、第三のキャラクターを設置することで、単純な善悪の二項対立から物語をより深いものすることに成功している。それはどちらかというと被害者の立場に近い人々だから、犯罪の残酷さ、陰鬱さがいっそう引き立つ。
また善い、悪いを超越した人の持つ情念だったり、負けない(勝つんじゃなくて)強さだったり、業だったりを警察小説では物語の一つの大きな枠となるべき法と罰の埒外から書くことで、一体何が正義なのかをぐっさり私たち読者に突きつけてきた。私は過去のタイトルの感想で持って、「戦う女性たち」が一連のシリーズで重要なファクターであるのようなことを書いたが、特に2作目「キジ殺し」ではその女性が良いとか悪いとかを振り切って行動する様を圧倒的な筆致でもって書き出し、私はただただ感動したのだが、今作ときたらその要素を引き継ぎつつ、「そうでなかった人」を書ききってしまったのである。
「そうでなかった人」とは何か。これははっきりいって物語の確信に迫る事柄なので、具体的には書けないのだが、ぜひ読んでいただきたい。ある女性の復讐の執念が異様な形で現出するこの本のクライマックスは変な話日本の怪談のような趣がある。思わずううむと唸るような面白さであった。

加えてカールの過去の記憶の曖昧さが露呈し、トラウマの原因となっているステープル釘打ち事件も本編とは関係ないものの怪しい進展を見せて、アサドの過去と同様気になることこの上なし。邪推だが、特捜部Qは問題のある3人を意図的に集めた実験的な意味合いがあるのかと疑ってしまった。次回作以降が気になるところだが、訳者の吉田薫さんのあとがきによるとこのシリーズは全部で10作を予定しているらしく、今作は4個目だと考えると、まだまだ解けなそうである。一読者としては次回作が楽しみでならない。

警察小説の形をとった怪談であるとはいわないが、善悪の向こうにある言葉にできない人間の感情をみごとに書ききった恐ろしい娯楽小説であった。
相変わらずの面白さでいろんな人にお勧めしたいが、まずは第1作目から読んでいただきたいと個人的には思う。

ちなみに1作目の「檻の中の女」は映画化されている。
予告編をどうぞ。
カール・マークもアサドもちょっと若すぎるような気もするが、面白そうだ。日本でも公開されないだろうか。

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