2013年12月1日日曜日

アルネ・ダール/靄の旋律

昨今流行っているという北欧ミステリー。かくいう私も何作か読んですっかり虜になっているが、今作もそんな北欧ミステリー・警察小説の一冊。
舞台はスウェーデンだから、ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズ(ヴァランダーはスウェーデンの刑事)を大変面白く読んでいる私は否が応でも期待が高まるというもの。
作者はアルネ・ダール。これはペンネームで本名はジャン・アーナルド。本国スウェーデンでは文芸評論家でWikiによると新聞でも定期的に書いているよう。
今作から始まる一連のシリーズは全10作で、映像化もされている人気作なんだとか。

スウェーデン、ストックホルム郊外の警察署に勤める警察官ポール・イェルムはある日、移民が起こした人質立てこもり事件を正規の手順を踏まずに解決した。一躍マスコミの寵児となったが、しかし重大な規定違反を起こしたイェルムは懲戒免職も覚悟するが、以外にも新しく設立された部署特捜班Aへの転勤を命じられる。
イェルムは自分も含めて個性的な7人のチームで実業家が頭に銃弾を2発打ち込まれ殺された事件に取り組むことになる。

警察小説というと大抵個性的、はみ出しものの刑事が主人公なのが定石だが、今作は一癖も二癖もあるメンバーで構成されたチームものということでちょっと珍しい。チームものというとユッシ・エーズラ・オールスンの特捜部Qシリーズが思い浮かぶが、こちらは人数があちらの倍以上あって、またあそこまでキャラクターがぶっ飛んでいる訳でもない。
今作の刑事たちは個性的であるものの一般的な生活を送ってきたまじめな刑事ばかりである。彼らの個性は深く日常生活に根ざしていて、それゆえ彼らの抱える悩みに共感しやすい。それはヒーロー故の悩みというよりは一般人である故に連続する毎日の悩みであり、徐々に摩耗させられていくような彼らの疲れやいら立ちが身近に感じられて良い。当たり前なのだが、彼らも私たちと同じ人間なのだと改めて気づかせてくれるよう。

捜査も一つ一つの手がかりを丹念に追っていくスタイルで、トライアンドエラーの繰り返しである。何回もの袋小路から細い手がかりを追って徐々に事件の全容が明らかになる。
恐らくこの手法のためにチームものにしたのかなと思った。警察小説だととにかく主人公だけがある手がかりに突っ込んでいくことになるんだけど、この小説ではいくつかの手がかりが複数あって、それをチームで割り振って同時進行させていくというスタイル。
現実的にはこちらが当たり前の手法なんだけど、小説で改めて読むと結構新鮮で面白い。

また主人公イェルムは事件解決のためとはいえ人を撃ってしまったことに非常に動揺している。事件自体は陰惨だが、あまり派手などんぱちがない分、拳銃に代表される暴力の恐ろしさがはっきり出て(随所に大変痛そうな描写はありますが)、やたらと撃ちまくる小説(それはそれで好きなんだけど)が多い昨今では好感が持てた。

地味ながらもいぶし銀な魅力がきらりと光る一品。
チームのメンバーが多いので、今作は紹介がてら軽く紹介という感じか。もう少し各キャラクターを深堀してほしいと思うのはわがままだろうか。
何れにしても続刊が刊行されてみたらぜひ読んでみたい。

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