2014年3月16日日曜日

クリストファー・コンロン編/ヒー・イズ・レジェンド

アメリカホラー文学界の巨匠リチャード・マシスン(ご本人は2013年ご逝去。)へのトリビュート本。
現代ホラー文学界の最前線で活躍する第一人者達が集って、マシスンが書いた作品に関わる作品を新しく書き下ろし、それを集めるという面白い形式になっている。ありものの作品を集めてアンソロジーにするのとはちょっと趣が異なる。以前紹介した映画にまつわる恐怖短編を集めた「シルヴァー・スクリーム」もそうだったが、より統一感がある感じ。
マシスンというと一番有名なのは「地球最後の男」だろうか。2007年にウィル・スミス主演で「アイ・アム・レジェンド」としてなんと同タイトルの3回目の映画化がされている。(ちなみに本書のタイトルも同作にちなんだものです。)2011年に映画化された「リアル・スティール」もマシスン作。
巻末で瀬名秀明さんが解説の中で引用しているように、マシスンという名を知らない人でもマシスンの関わった作品を目にしたことがある人は多いだろう。というのも優れた文学作品は勿論、前述の「アイ・アム・レジェンド」もそうだが、自著が映像化されることも多く、また始めから映像となる作品の脚本を沢山書いていたようだ。かのスピルバーグの「激突!」もマシスンの手による。恥ずかしながらこの本を買うまでは知らなかった。昔12チャンネルの午後の洋画で「激突!」をみて手に汗握ったのは懐かしい記憶だ。
ドラマの脚本も多く、本国アメリカでは日本以上に影響力があるのだと思う。
本書ではクトゥルーものの著作も有名なラムジー・キャンベルが序文を書き、モダンホラー界の巨匠スティーブン・キングとその息子ジョー・ヒルの合作、「始末屋ジャック」シリーズのF・ポール・ウィルソン、マシスンの実子で脚本家として活躍するリチャード・マシスン、最近私がハマっているジョー・R・ランズデールなどなどそうそうたる面子が、マシスンが発表した作品にまつわる作品、例えば別の登場人物の視点で書いたもの、続編を書いたものなどを書き下ろしている。
恥ずかしい話だが、私はマシスンは早川書房から出版された短編集「運命のボタン」しか読んだことがなく、今作に収録されている小説の元ネタに関してはどれも読んだことがなかったのだが、それでも楽しめて読めた。
中でも気に入った作品をいくつか紹介。

冒頭を飾るキングと息子のヒルの合作「スロットル」。元ネタは追い越したトラックに執拗に追い回される「激突!」。スピルバーグの手になる映画がとても有名。
キングの息子のジョー・ヒルは以前「ホーンズ 角」という長編を読んだことあるけどとても面白かった。冴えない男の純愛物語でヒーローではなく角の生えた悪魔になって家族にさえ疎まれるけど孤軍奮闘して一度は失った恋人と再びよりを戻すという内容はネガティブな駄目男の神話みたいな感じでぱっとしない私にはグサグサ刺さりました。
乾いた砂漠でバイカーギャング達がやはり素性不明の巨大トラックに追い回される、という内容で私は元ネタを映画で見ていたこともあって、誰もいないひたすら伸びていく道路で鉄のかたまりに追い回される、というそのシチュエーションがすごく絵になって恐ろしい。4輪から2輪になって元ネタ以上に脆い感じが強調されているんではないだろうか。

ウィルソンの「リコール」は「種子(たね)をまく男」の続編。偽名を使っては引っ越しを繰り返し近隣の家々にたわいのないいたずらを仕掛けて隣人同士を不和に陥れる男の物語。始めはしょうもないなあ、と思うんだけど諍いが段々エスカレートしていくと緊張感が増してくる。元ネタでは人も死んでいるらしいし結構シャレにならない。今作でも平和だった界隈がにわかに殺伐としてくる。そこにあの男が!ということでカタルシス満載の短編に仕上がっている。ウィルソンのファンは絶対気に入ると思う。

何と言っても面白かったのが本書で一番枚数の多いナンシー・A・コリンズのてによる「地獄の家(ヘル・ハウス)にもう一度」。これは「地獄の家」という作品の前日譚にあたるもので、人里離れたカナダとの国境近くに建てられた豪邸で魔人めいた男が人知を超えた淫猥で残虐な快楽の限りを尽くした後に失踪。廃墟と化した屋敷には悪意を持った幽霊達が手ぐすね引いて蠢いているという。そこに大学の先生達が霊媒をともなって調査に赴き怪異に巻き込まれるというもの。いわば幽霊や敷物の正統を踏襲したものなのだが、邪悪としか言いようがない悪霊達のもう普通に生きているんじゃないのって位の生々しい騒ぎっぷりが恐い。是非オリジナルを読みたいのだが、現在では絶版状態みたいで残念。

解説によると原著はもっと沢山あるそうだが、邦訳するにあたって選定を行っているとのこと。他の短編も気になるところだな〜。
でもとにかく絶版になっている元ネタの復刊を望む次第。
マシスンのファンは勿論ホラーファンなら是非どうぞの一冊。

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