2014年3月9日日曜日

Nothing/Guilty of Everything

アメリカはペンシルベニア州フィラデルフィアのシューゲイザーバンドの1stアルバム。
2014年にRelapse Recordsからリリースされた。
Relapseといえばグラインドコア、ドゥームメタルを始め数多のエクストリームなメタルバンドを輩出してきた名門レーベルだが、昨今ではメタル以外にもその手を広げているようですなー。

「すべてにおいて有罪」というタイトル。真っ黒な背景に白い旗がはためくジャケットが印象的。真っ黒い旗はアナーキスト達のシンボルだが、真っ白い旗はいうまでもなく降伏のシンボルであるから、なかなかどうしてこれは一筋縄でいかなさそうではないか。
私とこのバンドの出会いは、昨年Relapseと契約したことがアナウンスされ、来るアルバムに向けて「Dig」という曲が公開された。確かBandcampで買ったのだが、無料でダウンロードしたのか忘れてしまったが、なんとなく入手したその音源にま〜〜やられてしまったのである。ざらついた轟音ギターにリバーブのかかった様なボーカルが乗るスタイルは間違いなくシューゲイザーであるが、しかしこの独特の暗さと憂いを満ちた儚さはどうだ。

私は「Dig」をヘビーローテーションしフルアルバムを心待ちにしたのだった。
そして2014年3月まさに満を持してリリースされたこのアルバムを聴けるということの嬉しさである。

ジャンルとしてはシューゲイザーということでよろしいかと。
歪めて音量をマックスにした様な轟音ギターにともすればバックの演奏にかき消されそうなな物憂いボーカルが乗るというスタイル。
ドラムは乾いた音でドタタドタタと結構重めにビートを刻むスタイル。
ベースは輪郭を曖昧にした様なもうろうとした音で水面下に潜むクジラのようにゆったりうねる。
ギターは粒子の粗いざらついた音で歪められた音が曲を引っ張る。フィードバックノイズも多めなラフな音像。
ボーカルは男性の声がベールの向こう側から聴こえるようにくぐもって浮遊感がある。
これらが一体となって曲を作っていく訳なのだが、もう全体に漂う憂鬱な感じがたまらない。シューゲイザーの魅力の一つに耽美な儚さと暴力的な演奏との相克があると思うのだ。音は凶暴なはずなのに、全体で聴くとドリーミィな方向に舵を取るバンドが多い中、このバンドNothingの暴力性はどうしたことだ。まるで破壊衝動の爆発のようだ。分厚い音が放射状に空間を埋め尽くさんとする執拗性、そんな凶暴さがあると思う。巨大な伽藍に響く様なエフェクトがかかったギターの引っ張る様な渦を巻く様なフレーズ。
その劇的な負の感情を無理矢理ねじ曲げてシューゲイザーという枠に押し込んだ様な、ともすると強引なその音楽性にはひたすら感服するしかね〜。安易に暴力的な音楽性をあえて採らず、なぜこの演奏にそのボーカルを…と驚嘆するそのひねくれたセンス。
この間紹介したAlcestは光に向かい外に飛び出したが、こいつらはひたすら暗く自分を掘り進んだようだ。これは偉大な空虚のような、そんな凄まじい憂鬱さが曲に横溢している。

一体なんでこんな音を鳴らすのだ、と疑問に思ってバンドのことを調べると結構面白いことがわかった。(以下は英語版のwikiの情報によりますのでひょっとしたら間違いがあるかもしれませんことご了承ください。)このバンドNothingは2011年Domenic Palermoという人物を中心に結成された。彼は以前Horror Showというパンクバンドを組んでかのDeathwishから音源をいくつかリリースしていたが(Deathwishのホームページで何曲か視聴可能です。なかなかハードコアパンクですな。)、喧嘩相手を刺してしまい凶器による傷害と殺人未遂で逮捕、2年刑務所に入ることに。出所後4年間彼は人生をどうしたら良いのかわからなくなり、毎日死ぬことも考えたが、ようやっとまた音楽をやることにして結成したのがこのバンドだそうな。劇的な話だが「間違いを犯してしまった男がバンドでもう一回やり直す」話にしては簡単すぎるよな〜。喧嘩とはいえ人を刺してしまうというのはこれはもう犯罪だもん。良い話として賛美するには重すぎるよね。私としてはさされた人とDomenicが死ななくて本当に良かったと思うよ。そういったドラスティックな経験がこのバンドの破壊的な反面妙に諦観めいた空虚さを抱え込んだ音楽性をすこしは説明するよすがとなるのかもしれないね。

という訳でオイオイこれはスゲエ。予想より大分スゲエ。Alcestの新作もすばらしかったが、個人的にはざらついて救いのないこちらにもシューゲイザーというジャンルの新しい地平線を見たようだ。Alcestの新作を買った人は是非こちらも聴いてほしいと強く思う。
いやいやいや3月にしてもの凄いCD買ってしまったな、という感満載の超オススメ盤。たくさんの人に聴いてもらいたいね。さあはやく買うんだ。

Bandcampでアルバムの曲が視聴できる。兎に角「B&E」という曲を聴いてみてほしい。



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