2014年3月9日日曜日

ジョー・R・ランズデール/罪深き誘惑のマンボ

アメリカの作家によるミステリー小説。
以前紹介したこの作者による長編小説「ボトムズ」が大変面白かったので、別の長編も買ってみた。バディもので不可解な事件に挑んでいく様はまさにミステリーだが、主人公2人が警察官でも全くない一般人なのが面白いところ。

テキサス東部に住む日雇い仕事で糊口を凌ぐ冴えない40代の白人ハップ。その友人で筋骨隆々、弁が立ち喧嘩っ早いゲイの黒人レナード。2人はレナードの隣人への放火の罪をもみ消してもらうために知り合いのハンソン警部補の失踪した恋人を隣町に探しに行くことになる。彼女フロリダはハップの別れた恋人で黒人の弁護士、かの町にはとある黒人が刑務所で首を吊った事件の真相を調べにいったとこのこと。その町グローブタウンは現在でも黒人差別が苛烈を極めKKKの様な組織が生意気な黒人を制裁して回っているという。果たしてフロリダ失踪の真相とは…

実はこの本の主人公ハップとレナードのコンビは作者の人気シリーズで(アメリカでは11作が刊行されている。)今作はその第三作目にあたる。第一作目は邦訳されていないが、他に二、四、五、七作目が一応邦訳の上出版されている。(一応というのは既に絶版であって新品はきわめて手に入れにくいからです。)
前にも書いたが女性の失踪だから一応これは刑事事件の範疇に入ると思うのだが、主人公2人は警察官ではないし、なんならゴロツキヤクザものとはいわないがなんともダメダメな感じがする大分変わり者であって、いわばちょっとしたアウトローだから結果他のミステリーとは一線を画す様な作品になっている。
兎に角下品で軽妙な会話がこの本の大きな魅力の一つで、主人公2人は勿論登場人物が喋る喋る。一癖も二癖もある連中だらけだからマシンガンのように繰り出される会話の中身というのもこれはまたかなり苛烈なことになっている。軽口といえば聞こえは良いがちょっとおいそれと口に出来ない様な下品で猥雑な内容が歯に布着せぬストレートさでこれでもかと繰り出される。会話の8割がけんか腰だし過剰に暴力的である。ブラックなアメリカンジョークが満載の犯罪映画を見ている様なアクの強さがある。私には多いに魅力的だが、ひょっとしたら受け入れられない人もいるかもしれない。

さてハップとレナードはやる気と行動力はあるものの、一般人であるから科学的捜査は勿論できないし、名探偵でもないから推理力も抜群というわけにはいかない。おまけに黒人差別の色濃い町にゲイの黒人を連れて行くわけだからこれはもう悶着が起こらない訳がない。レナードは「世界一頭の切れる黒人」を自称し、売られた喧嘩はウィットに富んだ啖呵を切って片っ端に買っていくものだから、事件を解決するどころが彼らが関わったことで混迷をきわめて行く訳だ。
「ボトムズ」と違って主人公2人が明るくへこたれないから閉塞感はそこまでじゃないし、絶望感もそれほどない。じゃあ底抜けに明るいドタバタ犯罪小説なのかというとそんなことは全然ない。「ボトムズ」でもあったが、今作でも未だに尾を引く人種差別の醜さというものをこれでもかというほど書いている。この作者の巧みなのはその残酷さやおぞましさを見事に軽妙な軽口の中に塗り籠めたのだ。一見明るいし、確かに読んでいて小気味よく面白い。ただしいやな後味のように隠されたメッセージがじんわりと効いてくる。
徹頭徹尾重いテーマを扱えばピュアな分重すぎて読み物としてはうんざりしてしまう。そこを旨く煙に巻くように甘い味で包んで「はいキャンディです」ととばかりに差し出してくる作者はさすがであるなと思う。
圧巻は凹まされた主人公2人が立ち上がる後半で、同じ作品かと勘ぐりたくなるくらいシリアスになってくる。不器用な2人の友情と生き方に思わず拳を振り上げたくなる様な熱い展開に快さいを叫びたい。

という訳で非常に面白かった。
会話で魅せるお手本の様な小説だと思う。まあだまされたと思って手に取ってほしい一冊。
兎に角シリーズの他の本が読みたくて仕方がないので、角川書店には是非重版を御願いしたいところ。こんなに面白いのにみんな一体なぜ読まないのか!!
電子化もされていないようだし、中古はあんまり好きじゃないのだが買うしかないかな。

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