2015年3月14日土曜日

ピエール・ルメートル/その女アレックス

フランスの作家による警察小説。
2011年にフランスで発表されると本国の文学賞だけでなく、イギリスの文学賞も獲得。
邦訳されると日本でも週刊文春ミステリーベスト10やこのミステリーがすごい!で1位を獲得したという話題作。訳者の後書きによると映画かも決定しているそうだ。
やたらとAmazonがお勧めしてくる訳で買ってみた次第。レビューの数も200件を超えていて私が普段読んでいる本はだいたいレビューが10個もつかないことはザラなんでワクワクしてくる。

パリの路上で女性が誘拐されたという通報があり、パリ警視庁犯罪捜査班のカミーユ警部は捜査の指揮を執る事になる。カミーユは有能だが身長145センチという体躯がコンプレックス。おまけに妻を誘拐された上に殺されたそう遠くない過去があるため、この案件の捜査には当初乗り気ではなかった。通報によって発覚したこの事件、あまりに証拠が少なく捜査は遅々として進まないが、カミーユは次第に熱を上げていく。少しずつ概要が明らかになる中で疑問が出て来たのだ。誘拐された女性の情報が全く入ってこない。刑事の直感で女性の正体がきになるカミーユ。
一方誘拐された女、アレックスは全裸で木で作った極端に小さい檻に閉じ込められていた。その檻の中では坐る事も立つ事も出来ない。誘拐犯の男は「お前が死ぬのを見たい」という。監禁状態が続き次第に精神の均衡を崩していくアレックス。しかし決してあきらめない心で脱出の機会をうかがうが…

さてこの小説、調べていただくと分かると思うのだが所謂衝撃の結末系でもってやたらと後半の展開がすごいとあおられている。(個人的にはネタバレがあるよとか衝撃の結末だよ、という事自体がすでにネタバレしている様な気がするんだけど、まあこの本の場合は帯にも書いてあるくらいだからまあ良いかと思って言及する。)なんとなく構へて読んだけど結論から言うとその「衝撃」部分を脇において(実際には脇には置けないのだが)も良く出来た警察小説だと思う。というか結構オーソドックスな警察小説だ。
主人公カミーユは自分の問題を抱えた中年の刑事でこれは昨今の警察小説では王道パターン。(ただ身長という問題と、そこに結びつく母子の関係(母親が妊娠中に喫煙しまくったから胎児カミーユに影響があって身長が伸びなかったと思われるという設定。)、さらに自分の妻が殺されたトラウマと結構盛りだくさんってのは特異かもしれない。ただそれぞれカミーユの行動の同気になるので個人的には別に多過ぎとは思わなかった。)それから善悪の問題が根底に横たわっている。(この善悪の扱いと拷問だったり殺人だったりの時にどぎつい描写が個人的にはこのブームを生み出しているのではないかと思う。)何回か書いているが警察小説が個人的に面白いのは絶対的正義という矛盾を抱えた警察組織で働く刑事達の心の葛藤(もしくは読み手側への問題提起というかもやもやしたこの気持ち)である。この小説もアレックスという特異な女性の存在でその問題に切り込んでいると思う。ただカミーユは結構さばさばしていて迷う事無く正義に向かって突っ込んでいくので説教臭さはほぼ無い。警察小説のツボを押さえつつ残酷描写でガっと掴んでスピーディに進めていくジェットコースター感重視なスタイル。カミーユ側とアレックス側での視点変更も結構この手の犯罪小説にはある手法ではないかと。
だもんで「衝撃の〜」ってのは個人的にはそこまで衝撃ではなかった。ただこれってああいうことか!というのが何回かあってそこが良かった。不可解さが後から説明される感じ。
レビュー読んでて低評価にしている人は、主人公カミーユの個人的なストーリーがうざいってのと謎とか全部後出しじゃん、って人が多いようだから多分警察小説ををあまり読んでない人が煽りの文言でミステリーだと思って読んでしまっているからではなかろうか。(べつに警察小説沢山読んで出直してこい!って訳じゃないよ。)

娯楽小説として非常に優れているおり、話題になるのも頷けた。400ページちょっとあるけど先が気になって(橘明美さんの翻訳もすごく読みやすい!!)結構短時間で読み切ってしまった。個人的にはただ「衝撃の展開」のすごさというよりは至極真っ当な警察小説として完成されている点が気に入った。
話題になっている面白い本が読みたい人は是非どうぞ。

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