2015年5月5日火曜日

ダニエル・フリードマン/もう年はとれない

アメリカの作家によるハードボイルド小説。
日本では去年に発売されて以来翻訳ミステリーベストに選出されたり、Amazonでもレビューの数が多くかつ好意的だったりと恐らく色々と話題になっている小説。本国では映画かも決定しているし、続編も既に刊行済みとの事。

ユダヤ系アメリカ人バック・シャッツは87歳。メンフィス署で30年以上も捜査の最前線にたった古兵で最盛期ではメンフィスの死因第4位はバックによるものだった。そんな彼も年並には勝てずに現役を退いてから大分長い時間が過ぎた。ある日知り合いの臨終に立ち会うと彼はバックと因縁のある既に死んだはずの元ナチの将校を目撃した事があるという。それも車が沈み込むほどの金塊を持っていたらしい。おとぎ話と鼻で笑うバックだったが、周りは彼を放っておかなかった。孫のテキーラに尻を叩かれて思い腰を上げるバックだったが…

主人公が87歳の老人というのが最大の売り。偏屈なじいさんというのはある種典型的なキャラクターなのだが、ここまで振り切った老人も珍しい。かくしゃくとしているどころではない。弁は孫より立つし、減らず口皮肉がマシンガンのように飛び出してくる。強気はダーティハリーを地でいった当時から恐らく少しも減じていないのだろう。ただ面白いのは彼も寄る年並には打ち勝てない。口より先にというよりは口と同時に手が出るタイプなのだが、その拳に既に力はなくむしろ血液が凝固しないように飲む薬のために痣が出来てしまう。ネット技術は皆目分からないし、医者に因ると認知症の初期症状が出ている可能性がある。精神はたくましいのに、肉体の衰えはかくしようがない。いわば威勢は良くて一見層は見えないのだが、確実に黄昏れの人なのだ。応援するには老人すぎるし、かといって同情しいたわるには頑丈・固陋すぎる。全く魅力的なキャラクターができたものだ。ある種典型的でも細部まできちんと作り込んだ、その技術に面白さが宿る。

主人公だけでも魅力的だが、話の筋も結構いいとこ取りになっている。
基本は老人が探偵役のハードボイルドが根幹にあるのは良しとして、さらに主人公はナチの強制収容所に収監されていた事があり、そのとき因縁があったのが今回追うべき金塊の所有者であるから、これは大分長い事を経た主人公の復讐譚である。
それからナチが持っているという金塊を追うという物語、これもいささか累計的かもしれないがだからこそファンタジーとしてリアリティがある(矛盾しているな、ファンタジーなのにリアリティとは)わけで、これは冒険譚でもある。
主人公は元警察官だから警察小説?でも引退しているので警察捜査の煩わしさからは解放されている。気の向くままに捜査を進める事が出来る。
とまあ、色んなジャンルの良いところをすすっと集めてくみ上げたのがこの小説。上手いな〜という印象。87歳が主人公というとしぶいいぶし銀のイメージだが(そしてたしかに主人公は叩き上げの渋いキャラクターであるのは事実だが)、結果としては結構勢いで押し切る様なエンターテインメント方向に舵を取った小説になっていると思う。(映画化とはだから良いと思う。)
個人的にはちょっと気になるところ(犯人のやり方のあたり)が無かった訳ではなかったかな。主人公の悩みと今後に関してはとくに異論は無いんだけどもうちょっと葛藤が弱い感じ。良く出来ているのだけど教科書的・模範的なところからもう一歩進めてほしかったなと思うのは、自分読者の贅沢なわがままだとは思う。
最後まで面白く読めた。最後は好みだと思うこの本を手に取って損したって人はあまりいないのではなかろうか。面白い本を探している人や、超高齢ハードボイルドって単語に引っかかる人はどうぞ。

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