2015年5月17日日曜日

クリス・カイル、ジム・デフェリス、スコット・マキューエン/アメリカン・スナイパー

アメリカの元軍人による自伝。
2012年に発表されると大ヒットし2015年初頭には120万部売れている(後書きより。)。2014年にクリント・イーストウッドがメガホンをとり本書を映画化。さまざまな議論や論争を巻き起こしつつ大ヒットし、戦争を題材にした映画として「プライベート・ライアン」を超えて史上ナンバーワンとなったそうだ。

主人公というか語り手はクリス・カイル。彼はアメリカ海軍の特殊部隊SEALに所属し、公認されているだけで160人のアメリカの的を狙撃で仕留めた。これはアメリカ軍の狙撃史上では最高の記録であるそうだ。160人というのはきちんとした規定で測定されたもので(例えば撃たれてその場で死なないとカウントされない。撃たれた人が見えないところまで這っていてそこで死んだらノーカウント。)、実際にはもっと多いだろうと言う事だ。
クリス・カイルはテキサスに生をうけ、幼い頃から狩猟を通して銃器の扱いには慣れていた。カウボーイになりたいという希望があり、大学に通いながら農業で働き、ロデオに熱中していた青年はしかし軍隊に入る事を決意。大学を中退し紆余曲折を経て海軍に入隊。人々を守りたいという強い欲求を持っていた彼ははじめから特殊部隊入りを視野に入れており、時に脱落率が9割を超えるという厳しい訓練を経て無事に海軍特殊部隊SEALに入隊。イラクに戦争に赴く事になる。次第にスナイパーとして活躍していく彼は4たび戦争に従軍した。戦果は挙がるばかりで的には「悪魔」と仲間からは「伝説」と呼ばれるようになったが、妻と子供との結婚生活は戦争の犠牲になり崩壊寸前。次第に心身のバランスを崩したクリスは除隊を決意。
という流れが、いかにも無骨な男の語りで淡々と進められていく。日本人の私からすると想像を絶する海軍のトレーニングなどは読んでいてとても面白い。また軍隊の厳しさを改めて実感する。新人は徹底的にいじめられ(とにかく理不尽に殴られるそうだ。時には気を失うまで。)、戦争で仲間は減る。本国では人殺しとなじられる。
そんな中クリス・カイルはぶれない。彼は標的を撃つこと、殺す事に全く疑問を持っていない。少なくとも彼は疑問を持っていないという。公開だってした事が無い。彼が殺したのは悪意を持った邪悪な人間で、彼がそんな人たちを殺す事でイラクにいる他の米軍兵士たちを、ひいては本国で戦争とは無縁(ではないのだが、テロもあるし)な人々を守る事になると信じて彼は異国の地で死体の山を築いていく。
こうかくと日本人の私たちからするといかにも米軍の厳しい訓練と教育が生み出した(もっと嫌な言い方をすると洗脳された)戦争マシーンの用に感じられるし、ある意味では実際に彼はそうなのだろう。しかしこの本の彼の語り口とその背後にある事実からはやはり人として血の通ったクリス・カイルが浮かび上がってくる気がした。一番印象的なのは最終的に彼は戦争にいる状態が一番心身が落ち着き、むしろリラックスしているべき時に血圧があがるという異常な状態に陥ってしまい、除隊を決意するところ。彼は酷な言い方だが家庭生活より戦地での生活を選んだ。4回も戦争に行って、子供はいるけど結婚生活・家族生活はほとんどないがしろにして来た。彼が望んだ事といっても彼は4回目の従軍の時にはかなりぼろぼろになっていた。面白いのは彼は決して自分の口で戦争が自分を駄目にしたとは言っていない。彼は優秀な兵士で入りたくても入れない様なエリート部隊にいた。しかし彼が普通の兵士と大きく異なっていたかというとそうではない。むしろ経歴が非常に目立つ分、普遍的な兵士の体現者として物語化しやすいと思う。(やはり普通の兵士の従軍記より、米軍史上最も殺したスナイパーの自伝の方が求心力があるだろう。)私たちは屈強な彼の背後に戦争の徹底的な荒廃をみる。少なくとも私はそう読んだ。これを読んで戦争に反対だとか、賛成だとか、ちょっとそんな簡単なものではない。まずはこういった世界があると、私たちがおぼろげながら知りつつも敢えて無視していた状況を、読者は受け入れなければいけない。すでにあるものに対して、賛成反対はできても、一体それ以上どういう立場を取れるのかというのは大きな疑問だ。そもそも今まで通り何もしなくても良いのだろうか?
むかしからこう思っている事がある。私が平和に暮らしているのはどこかで誰かが平和を守るために戦っているからだろうか?私は戦争は好きではない。結局は自分がいきたくないという臆病な理由が主だと思う(が、やっぱり戦争に巻き込まれた人たちの写真や映像を見るとなにかしら胸が締め付けられる)。でも現実に起こっている戦争に対して、変な話自分が嫌らだからという理由で気軽に反戦!といって良いのだろうか。世界に色んな人たちがいて、その人たちがこちらに害をなさないと信じるというのは無茶な話だと思う、悲しい事だが。この本を読んで私は戦争の恐ろしさを改めて実感した。いまでも戦争には反対だ。しかし兵士に石を投げる事は出来ない。たとえ彼らが私が好きじゃない事をしてもだ。彼らは少なくとも私たちを守ろうとして戦っているのだ。私たちは守られているのに彼らにつばを吐きかけるのか??彼らは私たちを守ってなんかいないという人もいるだろう。それは本当かもしれない。しかし情けなさを承知で言わせてほしいのだが、それが(そしてどれが)本当に正しいのか私には分からないのである。(神様でもないのに彼らが悪い事をしているか良い事をしているか、本当に分かる人がいるのだろうか?????)戦争をこのように一兵士レベルで考えるのはそもそも無理なのかもしれない。批判の矢面には政治家たちをたたせるべきなのだろうか。
人が死ぬという事は嫌な事だ。そういった意味で兵士が死なないでほしいと思う。(可能だったら殺さないでほしいとも思う。正直。)戦争が行われているということを受け入れるというのはもの凄く難しい。私はこの本を読んで大いに混乱している。しかし読んで良かったと思っている。映画も見たい。
面白さと、そして戦争について考えざるを得ない力を持った本だ。是非読んでほしい。特に戦争が嫌いな人たちに読んでどう思ったのか教えてほしい。

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