2015年5月17日日曜日

ブルース・スターリング/塵クジラの海

アメリカの作家によるファンタジー/SF小説。
1977年に発表されて2004年に日本で翻訳の上発売された。
サイバーパンク小説が好きだ。まあ本当に何冊か読んだだけでスゲーと思っている様なにわかファンなのだが。このジャンルで一番有名なのはやはりウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」だろうか。合わせてこのジャンルの大立物がギブスンの盟友でもあるブルース・スターリングと彼の手による「スキズマトリックス」そして「蝉の女王」ではなかろうか。とにかく目に触れる機会の多いタイトルである。しかしこまったことに前述の2作は本邦では既に絶版されて久しい。というかスターリングの作品で手に取る事が出来るのがギブスンとの合作「ディファレンス・エンジン」、そして単独で書かれた本書のみなのだ。両方読んだ事が無かったが迷った末にまずはとばかりにこちらを選択した訳だ。

水無星。そこは文字通り水が無い世界。惑星に開いた巨大なクレーターの底部にのみ大気が存在し、入植した人類はクレーターの底に張り付くように暮らしている。クレーター自体は塵に覆われ素手で北海の様な様相を呈し、独自の生態系が形成されている。ジョン・ニューハウスは水無星で暮らすジャンキー。塵の海に棲む塵クジラの内蔵からとれる麻薬・フレアの愛好者だ。しかしこのフレアが政府によって法的に規制された。中毒者のニューハウスは自前で内蔵を確保すべく、捕鯨船にコックとして乗り込む。そこには変わり者の船長、そして翼を持って宙を舞う人体改造者ダルーサがいた。ニューハウスの冒険が始まる。

この本に版元はハヤカワ書房だが、SFではなくファンタジーを意味するFTが採番されている。1ページ目にはあの印象的な星のロゴではなく、中世風のドラゴンのロゴが印刷されている。訳者小川隆さんによる後書きによると正確にはサイエンス・ファンタシイというジャンルのようだ。引用すると「(略)想像力を自由に駆使しながら、ちょっとだけ科学の味付けをして作品世界のリアリティが補完されている、というのが特徴だ。」ということ。なるほど分かりやすい。いわゆるハードなSFとは一線を画すという訳だが、個人的には全然OK!ファンタジーでもあるのだが、ドラッグに耽溺するハードボイルドな主人公が異界に飛び込んでミステリアスな美女と切ない恋があったりというのも結構サイバーパンク的だなと思った。
かっとした紫色の太陽が大地を焼き付くし、青すぎる空の下でクレーターの壁に囲まれた砂の海をマストを這った捕鯨船が風のままに疾駆する、という世界観想像しただけでわくわくしてきませんか?
主人公を始め寡黙な男たちばかりでてくるのだろうが、熱さとこの惑星の孤立した環境(入植者の母胎がとある宗教団体であったようでかなり閉鎖的な印象がある。)でそこに棲む人間たちが次第にねじれて狂気をはらんでいる様な緊張感がある。旅が進むにつれて謎の船長デスペランドゥムの狂気が船を支配していく。ジャンキーが気張って健康的且つ開放的な海の旅に出たらむしろ牢獄でした、のようなどん詰まり感があり、砂の海に沈み込んでいく様な逃げ場無しの結末に主人公が引き込まれていく。

しかしこの本はかの有名な「白鯨」を下敷きにしているというし、いよいよ読まなくてはならないかもしれないな。
作者に因る前書きによるとこの本がよめるのは日本でだけのようだ。やはり若い頃かいた青い小説という事で作者が出したがらなかったという事情もあるみたい。サイバーパンクでないにしろ面白さは折り紙付き。SFファンやあらすじの世界観にぐっと来る人は是非どうぞ。

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