2015年10月11日日曜日

J.L.ボルヘス/伝奇集

アルゼンチンの作家ボルヘスの短編集。
購入したのは大分前だったのだが(調べたら6年前だった)、当時は最初の短編をほんの少し読み進めただけで???と訳分からなくなってしまってそのままそっと閉じて本棚の肥やしにしてしまったのです。(貧乏性な私には珍しい。)
この間もっかいチャレンジするかと別の本その名も「砂の本」を読んだらとても面白かったので、そろそろ良かろうという事で本棚の中から探し出して再読。今度は楽しく読めた。
どうもボルヘスというのは小説だと長編を一度も書かなかったらしい。この本もそんな彼の短編が収められている。処女短編集という事で1944年に発表されたもの。「八岐の園」(1941年発表)と「工匠集」(1944年発表)という二つの短編集をくっつけたものだと思う。

多分に言い訳じみているが何故(少なくとも私にとって)この本が取っ付きにくいのかという事を自分なりに考えてみるに、大抵の娯楽小説というのは事件があってそれに沿って書かれている。例えば密室で人が殺されて時系列純にそれを解決したり、異星人がせめて来るので時系列純にそれを撃退したり、ある親子が終わった世界をあてど無く旅をしているのを時系列純に描写したりと、まあ事件というと十分ではないのだけど、時間に沿ってある人物(たち)や場所(空間)にフォーカスを当てて描写していく。ところがボルヘスはこの短編集初っ端から架空の国(または世界)についての謎について書いていく。これも”私”がその謎に出会う所から始まっているので、上記の様な小説の流れをとっているものの、”私”を通して架空の国の概念(分かりやすく言うと図鑑の説明みたいな)に分け入っていく事になる。こうなると誰がどうしたか、という事ではなくてもっと観念論みたいになってくるから私の様な俗人には大きすぎる(もしくはもっと小さすぎる)という意味でとっても難しいのである。しかも大真面目な文体で進められるものだから、むむとなってしまう。前衛的だがシュールではなくてくそ真面目だ、つまり架空の図鑑を紡いでいくのがボルヘスであって、これは彼の図鑑である。だから小説をよむぜという6年前の私はおどろいたのだ。ちょっとテンションを変えて読めば普通に楽しめる。不思議というのは概念だから必ずしも筋を必要にしないのだという点では発見かもしれない。(事象賢い人たちの高尚な小説というのではないと思う。(その証拠に馬鹿な私でもとりあえず読む事は出来る。ボルヘスの真意を組めているかは謎だ。(開き直るようだがなにかの芸術に触れる時作者の意図なんて知った事かとも思う。)))
さてそんな感じでボルヘスの架空の概念を取り扱った図鑑が最後まで続くのかという塗装ではなく。特に後半ではちゃんと今風の物語の体を取った小説が姿を現してくる。なかにはある連続殺人に立ち向かう異色の警察官の物語も出てくる。(「死とコンパス」)これなんかは要するに完全なミステリーだ。「刀の形」、「隠れた奇跡」などはなんとも暗い味わいのある私たちのいる現実に立脚し、さらに空想のスパイスを(後者には幻想のスパイスも)隠し味に加えた何とも味わいのあるフィクションである。こっちを頭に持ってくれればな、と思うけどこれは日本オリジナルのアンソロジーという事でもないからそれは仕様がない。もし私にように買ったものの挫折している方がいたら前述のいくつかの短編を再度試される事をお勧めしたい。
広大な空間に無限に6画で区切られた図書室が無限に連続して存在する「バベルの図書館」。山尾悠子の短編でも言及されていて気になっていたけど、この果てのなさには実際頭がくらくらするようで大変面白い。想像力の極地だ。ボルヘスの物語は寓話っぽいのにそれの意図するところを読み取るのが大変難しく、そんな分かりやすい回答は無いのかもしれないと思った。つまり物語のための物語である。
大変面白かった。買って良かったな。読み終えるのに何と6年もかかってしまったが。

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