2016年5月29日日曜日

ドン・ウィンズロウ/ザ・カルテル

アメリカの作家による長編小説。
何を隠そうあの「犬の力」の続編!すかさず購入。

メキシコの麻薬王アダン・バレーラは真面目に刑期を勤め上げる気はなかった。周到に手を回し、アメリカからメキシコの刑務所に移送。中ではセレブの様な生活を楽しみ、悠々と脱獄した。自分をブタ箱にぶち込んだDEA(アメリカ麻薬取締局)の捜査官アールトゥーロ(アート)・ケラーに2百万ドルの賞金をかけ、かつての帝国を取り戻すべく復権に動き出した。一方DEAから離れていたケラーも因縁にケリをつけるべく捜査に復帰。メキシコを舞台に麻薬と暴力と血と死体が山のように詰み上がっていく。

物語のテーマと流れは基本的に同じ。麻薬戦争が主題に据えられていてかつては友情を育んだアメリカの捜査官と麻薬王がやり合う。前作「犬の力」は30年にわたる戦争を描いた重厚な作品だったが、今作はページ数は増えたものの経過する時間は10年。3分の1になった時間の中で圧倒的な濃密さでメキシコ、そしてアメリカ合衆国の暗部が描かれる。
スケール、迫力という意味では間違いなく前作を越えて来ているのは間違いない。非常に低俗な言い回しで恐縮だがおそらく殺される数、そしてその残酷描写も前作以上であると思う。
タイトルのカルテルは元々経済において市場に対して企業などの売り手の結託の事をさす言葉だが、いつ頃からか麻薬を売る犯罪組織に対する呼称になった。麻薬販売は恐ろしい利益を生み出すビジネスだ。作中では石油に継ぐ高い利益率と書かれている。(石油は精製に手間かかりそうな印象があったけどそうでもないみたい。)はっきりとした数字は出ないもののそれが生み出す金は300億ドルになるという。その金を巡って悪人たちが命をかけて戦い合う。この本を読むと日本にいる私たちからするとあぜんとする様な光景が目に飛び込んでくる。サボテンとソンブレロ、辛い料理、なんとなく陽気な男たちのいる国、そんなイメージのメキシコの治安が近年著しく低下している事はなんとなくニュースで知っている。そして多くの人たちが酷く凄惨な方法で殺されている事も。体をバラバラにされた死体が見せつけるように市井に放置されたり、麻薬と戦う立場にある人がもの凄い早さで殺されたり。一時期は女性の弁護士が殺されたり、とても若い女性が警察署長に就任したりと(調べたらその後身の危険を感じてアメリカに亡命したそうだ。良かった良かった!)、日本でも話題になったから憶えている人も多いと思う。なぜメキシコがそんな状態に陥ったのかをこの小説からある程度知る事が出来る。
ナルコと呼ばれる麻薬商人たちは商売が好調で莫大な金を得(ちなみに商売が低調だと牌の取り合いで暴力が加速するという地獄絵図)、警察官を買収し始める。元々賄賂の横行している国らしいが、驚くなかれナルコに協力するもの、独自に麻薬を売るものなど警察官は(勿論すべての警察官がそうではないだろうか)真っ黒。(なだたるナルコの中には警察官出身のものも少なくないとか。)麻薬売るためには暴力が必要不可欠なのでナルコは次に軍隊に目を付け、高額の報酬で正規の兵士をリクルートしてくる。これがまずかった。元軍隊はタダのチンピラとは違う。厳しい軍紀で統制され、退役の時に盗み出した銃火機で武装し、ライバルのナルコに連なるものたちを殺していく。殺すといってもまず融解し、さんざん拷問した末に殺し、相手をおびえさせるためにバラバラにしてオブジェにしたり、橋から吊るしたりとそういった方法で町に放置していく。暴力とそれに対抗するための暴力。それに対抗するための暴力。それに対抗するための暴力。それに対抗するための暴力。抗争と暴力は激化していく。
暴力は下世話な求心力がある。酷い言い方だがこの小説も陰惨な描写が一つの売りだ。そういった意味では非常にエンターテインメント性に富んでいる。対岸の火事をさらにフィクションという糖衣に包んで味わう事が出来る。ただこのお菓子は毒を含んでいて、読者の心には疑問が生じるはずだ。一体麻薬をなくす事は出来ないのだろうか。正義というのは幻想なのか。それこそが作者ドン・ウィンズロウの狙いかもしれない。彼の小説には麻薬が良く出てくる。スタイリッシュであるが、かならず麻薬の持つ暗黒面も書く人だ。
戦い続ける捜査官ケラーの心のうちには次第に疑問が生じてくる。麻薬を売る人がいるのはそれを買う人がいるからだ。そして誰かを逮捕しても別の誰かがその穴を埋めていく。国境は広く全部を監視するのは無理だ。一体この麻薬戦争はどこに終結するのか(それとも終結なんかしないのか)。なんとなく現状を見ればその先行きは分かるだろうが、一つの小説として是非読んでいただきたいものである。
面白い小説を探している人で暴力描写が大丈夫な人、それからメキシコって一体どうなっているんだろうと気になっている人は是非是非手に取っていただきたい。可能だったら前作「犬の力」から読んでいただきたい。長いがとても読みやすいので。ただこちらから読んでも大丈夫だと思う。非常にオススメです。

VOODOOM/VOODOOM

オランダのダークリチュアリスティック(暗黒儀式的)ジャングルユニットの1stアルバム。
2015年にPRSPCT RVLTからリリースされた。私が買ったのはデジタル版。
新人ではなくオランダのブレイクコア巨人Bong-RaとDeformerがタッグを組んだユニット。私はBong-Raのファンなのでそちら切っ掛けで購入。Deformerは未聴。白塗りというこの方面ではあまりない見た目が非常にかっこ良い。Bong-Raのドレッドは白塗りだと異様な感じがして良いすね〜。アーティスト写真の3人目(スーツ着てオシャレ)の人が多分ボーカルだと思うんだ。ゲスト扱いなのかもしれないが結構全面にボーカルとして参加している。

VOODOOMというユニット名(言うまでもなくハイチのヴードゥー(ゾンビで有名ですね)と呪いを組み合わせたものだと思う)もそうだし、ジャケットを飾るアートワーク、それから儀式的というウリも合わせてるとなんとなく彼らの音楽性もみ得てくるのではなかろうか。
ベテランBong-Raということで基本はかなりかっちりとしたブレイクビートでしっかりとした土台が組まれている。ぶっといビートの中間に撥ねる様なドラムが緻密に組まれているのはいかにもブレイクコアを感じさせるが、例えば曲の速度を過度に上げたり、ドラムンどころがドリルン、のような過剰な要素はあえて排する事でより強固かつタフなビートが完成されている。そこにややもっこりとしたベースが乗っかる。
うわものは非常にシンプルであくまでもビートを中心に志向された音楽だと思う。とはいえダークで儀式的な雰囲気をになう暗いシンセ音も冷徹なマシンビートと対をなして非常にかっこ良い。恐らくビートを抜けば上質のダークアンビエントとしてそのまま着ケルンじゃなかろうか。
このユニットで特徴的なのがこれらにさらに乗っかるボーカルである。ラガマフィン、いわゆるラガというのだろうか。ダブ、レゲエを感じさせるあの独特な歌い回しが大胆にフィーチャーされている。元々ブレイクコアにラガをのせるのは一つの様式であってBong-Raでなくてもこの手法はとられていた(ぱっと思いつくのはKid606やRepeater。私は大分古いブレイクコアファンだな。)ので、流石のセンスと経験でもって非常に上手くダークな曲に調和している。このラガいボーカルの怪しさが儀式さを圧倒的に際立たせている。酔っぱらっている様なリズムがしゃがれ声でがなり立てる。特徴的だがアルバムが進むに連れて中毒になってくる。微妙な反響がかけられていてまさに邪悪な儀式で呼び出された悪霊である。
ラガの要素も色濃いのでダブさも満点だが、いわゆる流行のダブステップ、つまりワブルを聴かせたそれらとは明らかに一線を画す、伝統的なダブを感じさせるものでこれが非常に硬派でかっこ良い。見た目の雰囲気もあって怪しさ満点だが音楽的には非常に真面目きわまりない。ダークである以上に非常にリズミカルで楽しい音楽である。これはフロアで聴いたらきっと盛り上がるんじゃないだろうか。

という訳でとってもカッコいい電子音楽。これはかなりガッチリしていて硬派である。オススメなので是非どうぞ。

nothing/Tired of Tomorrow

アメリカはペンシルバニア州フィラデルフィアのシューゲイザーバンドの2ndアルバム。
2016年にRelapse Recordsからリリースされた。
私が買ったのはボーナストラックが2曲追加されたデラックス版(のデジタル)。
2014年にリリースされた1stアルバム「Guilty of Everything」はシューゲイザーの手法に乗っ取りながらも、元ハードコアという出自をいかした不穏かつ、同ジャンルの文系かつ芸術的なそれとは一線を画す、完全に体育会系ヤンキー(というか前科者)節なフィジカルな暴力をにおわせるノイズを鳴らす希有な音楽スタイルで持って結構受けたのではなかろうか。かくいう私も未だに良く聴くお気に入り盤なので、この2ndも多大な期待を持って購入。

「明日に飽きた」という非常に厭世的なタイトルでニヤリとさせられるが、曲目の方も「死人に口無し」、「ウジ虫に喰われて」など退廃的というよりはやはり陰惨さを感じるタイトルが並んでいる。
聴いてみると大分メジャー感が増したように思った。端的に言うと曲調は明るくなり、地下臭さとノイズ分は減退した。代わりに王道なシューゲイザー成分が前面に押し出されている。ディストーションのかけられていないギターも結構使われているし、ピアノやストリングスも大胆かつ効果的に取り入れられている。楽器陣の音量が下がった訳ではないのだが、閉塞感がなくなり、大仰とはさすがに言えないけどぐっと広がりがでた印象。
ボーカルに関してもよりシューゲイザーっぽくなったのではなかろうか。喧しいバックの演奏と反比例するように儚さが増しているように思う。曲によってはそれこそMy Bloody Valentineぽいなと思う事もあったり。
真っ白いつなぎを着たメンバーが絵の具をぶちまけられるという、なんとなくありがち(具体的に思い浮かばない自分が悔しいのだが)な映像が衝撃的な先行シングル「Vertigo Flowers」はとくにこのメジャー化を象徴しているナンバーでなんとなくハッピーな感じすらする。

メジャー感は増しているのにインディー感漂うというのは変な話だけど、結構インディーロックな感じ(というのもインディーロックをあまり聴かないので。あっているかわからない)。ハードコアを通過した凶暴さと(ノイズなどの)装飾性は削ぎ落とされ、シンプルな中に生活感というか自然さが顔を出した。シューゲイザー独特の浮遊感がまし、余裕ができた隙間に詩情があると思う。
一方でこちらもMVが作られている「Eaten by Worms」は(そのビデオ映像もそうだが)、暗く陰鬱で暴力的なnothingを象徴した曲で、大胆に取り入れられたピアノは新境地だがぽつぽつ呟かれるように歌われる不穏な歌詞とざくざく刻まれていく分厚いギターリフ、静寂を挟んでノイズにまみれる後半など、このバンドの真骨頂の一つではなかろうか。この曲私はとても好きですね。

非常に良く出来たアルバムでこちらの方向転換も上手く行ったのだと思う。すっと聴けて気づくと結構リピートしている。
じゃあ素晴らしいアルバムかというとちょっと難しい。ここからは完全に好みの問題なのだろうが、個人的にはこのアルバムはとても好きだが、このままこの路線をつき進められたらちょっと厳しいかもしれない。私は(多分少数派なんだろうと思うが)個人的にはノイズとディストーションにまみれた黒いnothingの方が圧倒的に好きだ。(つまりこの2nd、バランスがとれた良いアルバムであることに異存はない。)だから「Eaten by Worms」の用な曲がこの先作られないのであるならそれは寂しい。nothingは挫折を経た、挫折を歌ったバンドじゃないだろうかと思う。1stアルバムでは白旗が掲げられていた。そしてタイトル曲では「俺は跪いている 俺は銃は持っていない なんならしらべてくれよ でも結局あんたは俺を撃つだろうな」とまさに警察に逮捕されるその時を歌った様な世界観であって、その挫折、その後悔、そんな負の感情をノイズにのせて押し出していた。1stと全く同じ音楽を求めるのはさすがにどうかと思うが、もうちょっとここら辺を突き詰めても欲しいものだと思う。
という訳で思い入れが強い分余計な事も書いてしまったが、期待を裏切る良いアルバムだった。CDかできるならアナログが欲しいな。このバンドが気になった人はまずこちらを買うのが良いかもしれない。

2016年5月21日土曜日

Sylvester Staline/$.$. Gonna Spread hard Drugs to Your Stupid Kids With the Royalties Generated By This CD

フランスのパワーバイオレンスバンドの1stアルバム。
2005年にフランスのBones Brigade Recordsからリリースされた。
元々F.U.B.A.R.とのスプリット音源が大好きでその他の7inchも持っていたりしたのだが、持っていなかったこの音源をBandcampで買える事に気づき購入した次第。
「ロッキー」「ランボー」シリーズなどであまりに有名なハリウッド俳優シルベスター・スタローンと悪名高いソ連の独裁者ヨシフ・スターリンをくっつけるというふざけたバンド名。「SSはこのCDのロイヤリティでハードドラッグをおまえらの馬鹿なガキに広めてやるぜ」というタイトル(そんなロイヤリティが出るほど売れたのかは疑問が残るが。)。曲名にしても「彼女がたった13歳だったなんてしらなかったんだよ、すまねえ」「マジのビッチはボッチ(いうまでもなくあのBotchのことだろう)を聴かねえ」「エモはハードコアのR&B」「俺はクソ警官をはねるために飲酒運転をするぜ」「防弾ビキニ」などなど悪ふざけを通り越した酷いセンス(褒めてます、褒めているのかな…)でこの不謹慎さはかのノイズグラインドバンドAxCxを彷彿とさせる。

音楽の方も相当酷い、の思いきやかなりかっこ良くて私は好きなんだけど。
音楽的にはパワーバイオレンスといっても(だいたいお察しの通り)真面目なそれらとは明らかに一線を画す内容。例えばグラインドコアばりの疾走と、一点淀んだスラッジパートを行き来する、みたいな格好良さや様式、美学、凝った展開なんかは一切なし。ひたすらつっぱしる。同じくパワーバイオレンスバンドのCharles Bronsonに似ているところもある、と思う。ハードコアパンクをもの凄いスピードで演奏する、というスタイルで。だからリフ一つとって見るとかなりパンキッシュでキャッチー。コード進行なのか分からないが、明るくてかなりメロディアス。ただこれを非常に速いスピードでやるもんだからせわしない事この上ない。喧しい。全部で33曲、だいたい1分かそこら。ラストは「クソなげ〜」というタイトルで9分。
ボーカルはとにかくわめきまくるタイプなのだが、基本「わーわーわー」(文字にすると非常にほんわかしてしまうのだが)と叫んでいるようにしか聴こえないし、曲によってはなんともかんともへろへろで、録音の仕方もあるのかもだけどなんとなく「こいつもっとやる気出しなさいよ…」とい言いたくなる様な脱力感がある。これが結構癖になる訳です。ちなみ弁護する訳でないのだが、前述のその他の音源に関しては改心したのだがテクニックを習得したのか知らないが、ボーカルにはかなりの迫力が出て良い感じです。
なんか駄目だししているみたいになってしまったが、アルバムが進んでくるに従ってやる気が出て来たのかボーカルにも気合いが入りだして、どぎついユーモア(なんともふざけたSEもちょいちょい挟んでくる訳です)に隠れがちだが元々演奏はかなりしっかり、かつかっこ良いので不思議な高揚感で持って乗らされてしまう上質なパワーバイオレンス。

昨今はどうも活動していないようで残念な限り。怒る人もいるだろうけど基本的には悪ふざけという感じで、ひょっとしたら照れ屋なのかもよ。勿論音楽的にはふざけているけどカッコいいという、ずるかっこ良さの典型なのでこの手のパワーバイオレンスが好きな人は是非どうぞ!私は結構大好きですね。元気になれるよ。

isolate/ヒビノコト

日本のグレイトハードコアバンドの1stアルバム。
2014年に日本のKeep And Walk Recordsからリリースされた。
isolateは5人組のバンドでこのアルバムは結成7年目(だから2016年は結成9年目ということになるはず)にしてリリースされたもの。
リリース当時色々なブログで取り上げられていたもののなんとなく買わずに過ごしていたが、この間ライブでisolateの音楽を目の当たりにし、これは買わねばと思って物販には知ったのだった。残念ながらその時は既に売り切れており買うことが出来なかったが(なのでEPの方を買いました)、その後無事Amazonでゲットすることが出来て嬉しい限り。

まずは「ヒビノコト」というタイトルそして暗くも色彩豊かなアートワークに心奪われる。音の方はライブの方で1回体験済みなので、嵐の様な会場で聴いたあの興奮がまざまざと蘇るとともに冷静に曲を楽しむことが出来た。ライブで聴いてから音源聴くのも大変良いものですね。
カオティックハードコア、激情ハードコアという文脈で語られることが多いようだし、実際出自に関しては確か似そうなのだろうと思うが、個人的にはブラッケンドハードコアだなと思った。それも欧米のそれらとがっぷり四つで渡り合って有り余るクオリティであることは間違いないのではなかろうか。この荒廃した凄まじさはちょっとストレートが信条のハードコア、さらに感情を剥き出しにする激情(激情であることは間違いないのだが)のさらに一歩先を行っている感じがある。とはいえ反キリスト的精神に代表されるブラックメタルの美学や禍々しさは皆無なので、生真面目過ぎて考えに考えたあげくに真っ黒いブラックホール(巨大な憂鬱や絶望感、無力感)にとらわれたハードコアというのが私の印象。完全にダークサイドに落ちきらないisolateの音楽にはだから常にギリギリ境界線状にいる必死さと迷いがあって、それが凄まじい感情と音の氾濫となって渦を巻いている。
壁の様なギターは新世代のブラック感を感じさせるし、主張の強いベースは確かにハードコア由来のもの。速くぶっ叩く以外にも饒舌なドラム、そして終始叫ぶボーカル。
「ヒビノコト」というタイトル、そしてパッチワークの様なアートワークは改めて極めて素晴らしく彼らの音楽を表している。歌詞を読めば”日々の事”を歌っている事が分かる。生真面目で正気でしかいられない(=安易な狂気に落ちこめない)、悩める人たちの平穏で不条理に満ちた毎日を結晶させたのがこのアルバムなのだと思った。だからたしかに激烈であってもこれは”日々の事”なのだ。

激しい攻撃性、そして徹底的な内省性、荒廃しつつ、公開しつつ、前進するという悩める人の悩める人たちに向けてのアルバムだととらえました。劇的な説得力。悩めるあなた、是非手に取ってどうぞ。


2016年5月15日日曜日

Dälek/Asphalt for Eden

アメリカはニュージャージー州ユニオンシティのエクスペリメンタルヒップホップユニットの7thアルバム。
2016年にProfound Lore Recordsからリリースされた。一風変わっているメタルを聴いている人ならお?とくるレーベルである。Proufound Loreといったらブラックだったりデスだったりとマニアックなカテゴリの中のさらに尖ったバンドの音源を多数リリースするレーベルだからだ。ヒップホップといってもやはりかなり特徴的な音を出すに違いないだろうな、と思って気になり視聴してかっこ良かったのでデジタル版を購入。因に調べてみると以前のアルバムは”あの”マイク・パットンの運営するIpecacからリリースしていたみたいでなるほどな〜という感じである。

Dälekの作品を聴くのはこれが初めて。結成は1998年で一回の解散を経ての地裁結成して活動しているようだ。何回かメンバーチェンジはあったようだがMCを勤めるMC Dälekは結成当時からオリジナルメンバーのようだ。
その音楽性は独特でなんとたびたびMy Bloody Valentineを引き合いに出して説明される。ヒップホップがなんたるかを語れるほど詳しくないのだが、ことヒップホップという音楽ジャンルとなるとサンプリング文化に根付いた、比較的音の少ないトラックの上に執拗に韻を踏んでいくラップをのせていくもの、ということになるだろうか。
Dälekの場合も韻を踏んでいくラップは確かに伝統的なヒップホップの手法に乗っ取っている。しかしその背後でなるトラックがかなり独特である。サンプリングという手法がとられているかどうかは不明なのだが(多分違うんじゃないかなと思うんだが、どうだろうか)、ヒップホップに特有の歯切れの良い音のぶった切り(パーカッシブな音野津買い方)では全く構成されておらず、概してもっと浮遊感のある、かなりの厚みがある、そして途切れのない音が多く使われている。なるほどギターの轟音を壁のようにそそり立たせるMy Bloody Valentineが引き合いに出されるのもわかる音作りである。さすがにロックミュージックほどのラウドさはないものの、明らかにちまたのヒップホップと一線を画すその音は、ドリーミィであり、また暗く内省的だ。ただし、ヒップホップの肝であるリズミカルな要素は一切オミットされておらず、カッチリとしたドラムが刻みだすビート、そこにのる太く中音が強調された声で滑るように紡がれるラップが乗る。そうすると変幻自在にその形を刻一刻と変えていくノイジーなトラックが、寄せ手は返す波の様な効果を持って聞き手はゆったりと深く誘われるように深海に沈み込んでいく。この気持ちよさはなるほど、シューゲイザー的であり、かつそれらを使う一般的なロックバンドが生み出す音風景はまた異なったものだ。

シューゲイザーというとどうしてもロック的な音像を思い浮かべてしまうし、結果的にロックにアプローチしたミクスチャーの要素のあるヒップホップというのがなんとなくの先入観だったのだが、果たして実際聴いてみると完全にシューゲイザーなヒップホップであり、全く持って嬉しい期待への裏切りだった。なるほど今となっては色々な形のヒップホップが世にあふれている訳だが、その中でもこのDälekは相当変わった音を出しているように思う。似た音というのは知らないし、なんせ98年から活動しているのだから。
内省的で物語性に富んだヒップホップというと日本の降神を思い浮かべてしまうが、あれとは全く違った音で底のところも面白い。
不穏さ、というあまりヒップホップでは表現されない感情に深く切り込んだ内容で大変カッコいい。是非どうぞのオススメアルバムです。

The Body+Full of Hell/One Day You Will Ache Like I Ache

アメリカはロードアイランド州プロビデンスのドゥーム/スラッジデュオThe Bodyと同じくアメリカはメリーランド州オーシャンシティのグラインディングノイズハードコアバンドFull of Hellのコラボレーションアルバム。2016年にNeurosisが主催するNeurot Recordingsからリリースされた。私がかったのはデジタル版。
「死体」と「地獄いっぱい」がコラボしてできたのが「いつかおまえらも俺のように痛むだろうよ」という底意地の悪さ。のっけから悪い予感しかしない極悪アルバム。

ノイズへの接近という共通項はあるものの、地獄を這い回るドゥームとグラインドコア顔負けの激速ハードコアということで地獄の様な激音になるものの、その足し算というよりは掛け算は一体どんな解を出すのだろうかというのが気になるところ。
The Bodyは今までThou、それからKreigとのコラボレーションアルバムを聴いているが(実は未だ単独のアルバムは聴いたことないんだ…)、今回は個人的には一番気に入っているかもしれない。というのも両者が混じり合っているのだが、互いの良いところは完全に分離している。つまりだな、お湯と冷水を混ぜてぬるい液体ができた!というのではなく、あっつい、そして冷たーいが見事に同居した見事なアルバムなのだ。共通項であるノイズが強烈な個性を見事に一本の太いパイプでつないでいる印象。
アルバムタイトルを冠した1曲目がこのアルバムを見事に表現していて、ドラムマシンの低音から一気にブラストになだれ込むハードコアから一点、後半いっきに停滞し淀んで行く退廃ドゥームが両立している。まさにノイズが彩る地獄のパワーバイオレンス。
またこれはThe Bodyの趣味だろうが直情径行で突っ走るだけでなく不穏な女性ボーカルを取り入れたりする小技も聴いていて気持ち悪さの中にも幅と広がりがあって面白い。完全に悪夢めいた廃墟の遊園地で、実体を持った化け物が殺しにかかる凶暴さと、廃墟にこだまする幽霊めいたこだまの二つが一挙に楽しめるこのエンターテインメント性の高さ。素晴らしい。後者に属する2曲、9曲目は荘厳さとそれにクソをぶっかける様な冒涜性。そして爆発する生とその後の硬直を経て、弛緩しきった退廃的な美しさがノイズに込めれていて大変美しい。
という訳で繰り返しになってしまうがThe Bodyのコラボ作では一番好みかもしれない。とにかく二つのバンドの良いところがそのまま活かされ、共作することで長所が倍加されているコラボのお手本の様なアルバム。両者好きな人はまず間違いなく楽しめること請け合い。是非是非どうぞ。大変オススメ。

コードウェイナー・スミス/スキャナーに生きがいはない<人類補完機構全短篇①>

アメリカの作家によるSF小説。
「スキャナーに生きがいはない」というタイトルに惹かれて購入。
コードウェイナー・スミスという作家は幼年期を中国で過ごし、かの孫文(どの孫文だろうな…)に字を賜ったという。長じてその経験を生かし極東方面専門の政治学者・軍人として活躍。大統領の顧問にもなったという人物。そんな彼は筆名を使って時に夫人と共作して奇妙なSF小説を書いていた。高度に発達した文明社会は戦争で徹底的に荒廃し、殺人機械と人間を超越した存在、フリークスが跋扈する地球を正しい姿に戻すべく立ち上がった組織、人類補完機構。その人類補完機構を中心にした未来史をスミスは書き続けた。この短編集はそんな独特な小説群をまとめあげたものの1冊目(全部で3冊発行されるとのこと)。
物語を書くということが副業であって、本人はとても立派な本職があって(恐らく)食べるには困らなかっただろうということもあって、スミスは相当マニアックな小説を書いている。後書きを読むと当時書き上げた小説は中々日の目を見なかったようだ。ぽつぽつと世に出始めるともの凄い感性を持って出迎えられた、ということもなかったようで長らくマニアックな作家ではあったが、それでも一部の人たちの琴線を揺らし続け、彼らはスミスの熱狂的なファンになったそうな。ようするに大衆受けしないマニアックな作家ということになるだろう。読んでみるとなるほどと頷ける。そもそも説明が極端に少ない。地球上に存在した現代文明がいかにして消え去ったかということは、大戦というおぼろげな事象があったことしか分からないし、小説の舞台となる世界の説明もほとんどない。(これには明確な理由があって後述する。)怪しげな人物(人ではない場合も多いが)、怪しげな機械が多数登場するがそれらの説明もほとんどされない。また未来は灰色とでもいうべき異常な姿形をしている。(ただこれはほとんどのSFが明るい未来を描かないから、一般受けしないという理由としては弱いかもしれないが。)派手で分かりやすくすかっとするアクションなんかも皆無である。暗澹たる様子で行き詰まった人たちが右往左往する未来はカタルシスは望むべくもなく、むしろ不安や焦燥をかき立てられる。
読んでて面白いのは未来史といっても共通の世界観をたしかに持っていはするものの、誰か特定の主人公が登場する訳ではない。物語毎に時代設定も(それでも概ね時系列順に並べようと言う試みがされているそうだ)みごとにバラバラ。登場人物たちはたいてい一般市民というか、小市民という感じであるから、物語は彼らの日常そして非日常にフォーカスしており、世界の全体像、情勢はさっぱり把握できない。いわばバラバラのパズルのピースを与えられた読者は(決して明確な全体像を結ぶことのない)、難解なパズルをといてスミスの描く世界を補完しないと行けない訳だ。私は椎名誠さんのSF小説が大好き。また漫画だけど弐瓶勉さんの「BLAME!」も聖典のように考えているから、こういった言葉少なに語られる世界をあれこれ想像するのがたまらない読書の醍醐味の一つとしてとらえており、従ってスミスの一連の小説群も大変楽しく読めた。またジョン・クロウリーの「エンジン・サマー」に代表される(例えば宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」なんかもそうであるよね)、既存の文明が崩壊した後で、ジョジョ風に言えばいわば一周回った世界で奇妙なフリークスたちが文明の残り香とも言うべきガジェットに散逸するその中をとぼとぼと歩いていく様な、そんな黙示録的な未来には目が無いのである。

猫好きだったという作者の好みが出ていて猫と一緒に広大な二次元宇宙に偏在する竜と戦ったり、かわいげのある殺人機械が少女を守ろうとしたり結構日本人好みの設定もあって、世に出るのが早過ぎた感のあるこれらの不思議な小説群が歴史順に並べられてまとめて読めるというのは大変ありがたいことだと思う。マニアックな作家・作風というのは過去の話で手に取ってみればかなり面白く、難解さは感じられない。気になった人は是非どうぞ。オススメ。

2016年5月8日日曜日

sekien/sekien

日本は兵庫県姫路市のハードコアバンドの1stアルバム。
2016年に日本のLongLegsLongArms Recordsからリリースされた。
2010年に結成された3人組のバンドで幾つかのデモをリリースして後の待望のフルアルバム。比較的新しいジャンルであろうネオクラストを日本から発信する数少ない(唯一かどうかはわからない)バンドで激烈な音とライブの凄まじさでもって界隈では割となの知れたバンドなのだと思う。バンド名はsekienで漢字で書くと赤煙ということで中々意味深である。血の通った狼煙たるべし、という気概の現れだろうか。
私は先日のKhmerの来日ライブで初めてその勇姿を見れたのだが(CDもそのとき購入)、話題になるのが頷けるほどの内容だった。

クラストというのは音楽の一カテゴリであるけど単に音楽性でもって語られることの出来ないジャンルであると思う。(ハードコアという一大ジャンルは特にその傾向が強く感じる。)その中のさらに細かいカテゴリであるネオクラストに関しても激情をさらに発展させたその先、ブラッケンドされた真っ黒いハードコアという曖昧な共通点はあるもののすべてのバンドがそうである訳でも無し(現在進行中のジャンルということもあるだろうし)、その音は出すバンドによって様々。
このバンドsekienに関してはハードコアの荒々しさがその成分の大半を締めていてブラック感はあまり感じられない。哀愁のメロディで激走するギターはトレモロ感はあるものの冷たいブラックというよりは熱気で加速して暴走している様があって、やはりもっとハードコア(激情)っぽい。捨て鉢のする短いギターソロもパンクっぽさを感じさせる。
ボーカルは掠れまくった低音で唸る様な咆哮でかなり独特。歌詞は日本語でブックレットのようにガリガリ削って彫り込まれた様な勢いでもって突き刺さる。
曲はほぼ2分台だが結構ボーカルが入っていないパートがふんだんにとられていて、ここがまたすごいカッコいい。疾走パートではとにかく前述のギターがメロいわけだし、速度の遅いパートだとベースのガツンとくる衝撃がカッコいい。タメのある間奏パートでは暴れられるし。かなりメリハリが利いている。6曲目「開花」は完全にインストナンバーでここにこのバンドの激情さが一つの形として結実していて自分はもの凄い好きですね。多分このアルバムで一番キャッチーなナンバーではなかろうか。無骨な音楽性の内面が非常に上手く表現されていると思う。
ライブを見て特に思ったのはその媚びなさ。キャッチーなメロディがある訳でもないし、音も荒々しくまさにrawなもの。タトゥーだらけのメンバーは厳つく、MCもほとんどしない。同じステージに経った同じジャンルのKhmerは苛烈な音楽性に反して終始和やかなライブだったのだが、一方のsekienの立ち居振る舞いは無愛想・無骨を通り越して観客を殺しにかかってくる様な殺伐としたもの。その過激で攻撃的なアティチュードはCDの音にも閉じ込められている。なんというかこうしちゃいられない!という感じの焦燥感、突っ走らずにはいられない闇雲さ、そんな感情がネオクラストの音楽に結晶化している。攻撃的であるが、多分に内省的でまっちょいハードコアなんかとは明らかに一線を画す。

拍手でというよりは振り上げた拳で迎え入れられるハードコアだと思う。殺気と熱気を感じたい人は是非どうぞ。非常にオススメ。

2016年5月7日土曜日

デニス・ルヘイン/過ぎ去りし世界

アメリカの作家によルノワール小説。
「運命の日」「夜に生きる」に続くコグリン家サーガの3作目。全2作を楽しく読んだので勿論こちらも購入。
原題は「World Gone By」。

ジョゼフ(ジョー)・コグリンはギャングだった。しかし抗争で妻を失ってからは引退し、”組織”バルトロ・ファミリーの顧問役として表舞台からは立ち去った。実業家として組織を潤して来たジョーだがある日刑務所に収監された女殺し屋から自分の暗殺依頼が走っていることを知り愕然とする。一体誰が?なぜ?ジョーは半信半疑ながら犯人探しを開始する。

第二次世界大戦真っ只中の1942年、アメリカはフロリダ州中部の都市タンパを舞台にしたノワールもの。「運命の日」では脇役だったコグリン家の末っ子、ジョーが裏世界でのし上がっていく様を書いた「夜に生きる」の本当に後日談であり、登場人物も「夜に生きる」と共通している。裏表含めて実際に生きた人々(一番有名なのはチャールズ・ラッキー・ルチアーノだろうか、ただし彼は名前のみの登場)も登場している。
表向きは引退しても実際はギャングにどっぷりのジョー。こういう言い方をするとあれだけどジョーはどんどん弱くなっている。一番は家族が出来て、もっというと息子が出来たこと。おまけに妻で子供の母親を抗争で失っているため彼を孤児にしたくないという強い想いから、自分の命が危険にさらされているかも知れない状況(この確定ではない状態が人を一番苦しめるのかもしれない)が非常なストレスになっている。面白いのは作者が意図的にジョーを気丈に書いてみせているのだが、ジョーの言葉とは裏腹に彼が弱っていく様子がかなり克明に描かれている。
しかしジョーはそんな危ない家業から足を洗う気は全くない。たとえ危険が多くても既存のルールに沿って生きるなんてまっぴらなのだ。体制はヤクザかそれ以下だと考えているし、自由であることは死より、つまり自分の生より重たい。ところがそんな世界でもジョーは自分の付き合っているギャング仲間だけでなく所属している組織にも不信感を抱いてくる。それでもギャングを抜けることは考えない訳だから、いったいジョーは本当はどうしたいのだろうか?もし子供を守るなら、極端な話すべてを放り出して2人で外国にでも逃げれば良い。そうしないジョーは、そもそも子供を守ろうとは思っていない(守ろうとは思っているけどギャング生活の方が大事)、もしくは自分は結局死なないと思っている、のどちらかではなかろうか。「運命の日」の主人公でジョーの兄は元警官で信条のために命を賭して戦ったがそんな生活に嫌気がさして全く別の道(ハリウッドで脚本家になった)に進んだ。ジョーはそんな兄を愛しているけどやはりどこかで日和った、と感じている様な気がしてならない。ジョーにとって抗争の日々から抜け出すことは死よりは恥と考えていたのだろう。
ルヘインは華やかで刹那的で暴力都市に満ちたジョーの生活が果たして良いのか悪いのか2関しては全く書かない。ただ彼に密着して彼の生活を丁寧に描写していく。ルヘインは美学がある作家だと思う。過剰にセックス、ドラッグ描写、そして暴力を描かない。だから一発の銃弾が人の体にあけた赤黒い穴が異様に映える。特にこのシリーズでは殺人は真っ昼間陽光の下で行われる。うたれたギャングの死体から赤黒い血が流れていく。太陽の下で埃が待っている。その様は何とも言えない美しさがある。

面白かった。虚無があるというと格好付け過ぎ。ジョーは生きている。ギャングは骨の髄までギャングでいっていることがむちゃくちゃすぎる。人は裏切る。ただ彼らは裏切ったあいつも、そして自分もギャングだからといってひょっとしたら許すことが出来るのかもしれない。
万人にお勧めしたいのだが、まずは「運命の日」、もしくは「夜に生きる」から読んだ方が良い。

2016年5月5日木曜日

20Years Chaos@新大久保アースダム

日本のカオティックグラインドSwarrrmが活動20周年ライブを催すということで行って参りました。Swarrmは目下の最新作「FLOWER」がグラインドコアにメランコリックなメロディを持ち込んだヤバい出来になっており、これはという訳で行って来たのです。実は前にもライブのチケット買ったのに仕事で行けなかったこともあり、なんとなくリベンジ感もあったという。
新大久保は不思議な町でオシャレな若い娘さんが沢山いる。ほっぺたに何かの文字列をはっ付けている子がチラホラいて、あれは推してる韓国のグループのなんかなんですかね?もうちょっと人が少なければ良い町だと思う。(廃墟になれという意味ではない。)

珍しく一番手に間に合う。アースダムは久しぶりに来たんですけど相変わらず独特のスメルがしますね。きっとアレがアンダーグラウンド臭ってやつなんだね。「Welcome to underground」と耳元でささやくアレでしょうか。タバコOKのライブハウスなんで最終的には転換時は喫煙室の様相を呈していてヤバかったです。

Self Deconstruction
「自らの脱構築」という名前の3人組のグラインドバンド。ボーカルが女性が特徴的でしかも魅力的。私はこういう時も生まれながらに身に付いたモテなさを発揮し、「よしボーカルの女性は見ないようにするんだ、音に集中するぞ、俺は音でバンドを判断する男なんだ」と自分に言い聞かせて、音に集中することでなんとかコトを収めた。とにかくギターが面白いバンドで、リフが完全にデスメタル的。もう一人のボーカルかってくらい饒舌に歌いまくる。変幻自在のその様は極めて流動的であとからあとから複雑かつカッコいいフレーズがボコボコわき出してくる。なんならちょっとオーストラリアの巨大な暗黒Portalみたいなぎゅわぎょわしたリフもあって良かった。曲の切れ目が全然分からない。つまりグラインドコアってことなんだ。最高だ。終演後もボーカルの女性を見かけたが天性のセンスであまり見ないようにした。見なければどうということはない。

Super Structure
Coffinsのベースの人がやっている別バンド。こちらは完全にハードコアなバンドでフロアも直情的にこの日一番盛り上がっていたのではなかろうか。ほんとチャッカマン的なあれであっという間に燃え上がったからね。ドラムの人がもうすごく煽ってくるもんね。怖いぜ。演奏陣もすごいテンションでやるもんだからこっちも盛り上がるんだな…と思った。とにかく高揚感を煽って来て前に行かないと〜と思わせるすごさ。といっても分かりやすいモッシュパートがある流行のものってより、もっとざらついて荒々しいハードコアだと思う。これはと思ってデモを買おうと思ったら売り切れていた。残念。

Sekien
この間もKhmerの来日公演でみた姫路の赤い煙。2回目見て思ったけどやっぱり不良っぽい。ヤンキーというのではなく不良。悪そう怖そうというのが音と見た目からそのまま出ている感じ。だから基本的に無骨で無愛想(メンバーの人個人がってわけでない。特にギターの方は色んな人と話しているのを御見かけして優しそうでした)。曲もはっきり言ってとにかくわかりやすくキャッチーって訳ではないんだけど、その見かけと中身でもって人を惹き付ける魅力がある。背中で魅せるタイプと言うか。今回は音源を聴いていたので曲もすっと入ってくる。個人的にはアルバムの中で異彩を放っているインストの「開花」をやってくれて胸が熱くなったよね。無骨なsekienの表面剥いだ裏側のその激情が一番ストレートに表現されていると思う。勿論その他の曲でも豪腕でフロアを盛り上げていくその様にはかっけえなあとため息が出てしまう。
思ったんだがこのバンドまでMCらしいMCはなくてハードコアすぎるな。

Twolow
主催の3LAの水谷さんがギターボーカルの”オルタナティブ”メタルバンド。見るのは初めてだったので超楽しみだった。HELMETを聴いたばかりだからか思ったのは、なんというかアメリカっぽい。Sekienとは違った無骨さ。こちらは前身これしなやかな筋肉とリズムの塊、という感じでひたすらリズミカルに迫ってくる。反復的でぶっといリフがひたすらカッコいい。上背のあるフロントマンも良く映える。音源に比べると圧倒的にドラムの迫力が増していて、手数が多い訳ではないけど一撃一撃が非常に重たく迫力がある。このドラムあってのリズミカルなリフなのかもしれない。いわゆるHELMETなんかに比べるとボーカルパートが少ないし(リフで魅せるパートが多い)、キャッチーな歌メロもない訳だからやはり中々挑戦的なバンドだと思う。沁みてくる何かがある。とても良かった。Swarrrmへの祝辞を水谷さんが述べる。

isolate
続いて東京ブラッケンドハードコアisolate。厳ついボーカルの人がSwarrmへの祝辞を非常に丁寧な物腰でしゃべるな〜と思っていたら、一気にぶち切れたボーカルからの曲になだれ込み私驚愕。ヤバい感がヤバい。だいたい普段平静な人が切れだす方がヤバいと相場が決まっている。フロアから身を乗り出してわめきまくる。まるで手話のように声だけでなくこちらに語りかけてくる。こうなると俄然一体このバンドが何を伝えたいのか興味が出て来てしまう。曲は激情ハードコアをさらに押し進めたものなのだが、トレモロリフも美麗なポスト感というよりはイーヴィルなブラックメタルのそれである。どの曲も速く、そして展開が複雑。なんというか個人的には絶望的な負の感情を感じ取り鳥肌。フロアも盛り上がる。
終演後物販でCDを買おうと思ったらアルバムは既に売り切れ。EPを購入。

Swarrrm
やはり今日の主役ということでフロアの密度が一番濃かった。
この日出演したバンドでは唯一始める時にSEを使った。盛り上がる。個人的にはこの時のステージとフロアの緊張感がマックスすぎて本当ワクワクして楽しかった。
曲が始まってしまえばカオス&グラインドの奔流だった。とくにボーカルの司さん(フロアでお見かけしたんだがおっかなすぎた…)は神がかっており、あの「ヴォオオオオオオオイヤアアアアア」という低音から高音に一気にオクターブあげていくシャウトはCDそのままどころか威力マシマシで殺気に満ち満ちていた。膝が崩れるかと思った。
おっそろしいボーカルをグイグイ押す、ギターの美しいこと。ポスト感とは明らかに一線を画す。ただグラインドしながらも最高速ではなく、べつのもっと陰鬱な美しさを志向するこのバンドの一角をになうのがこの饒舌なギターだと思う。この日もその魅力を堪能できた。個人的に大好きな「幸あれ」この曲は速度はどちらかというと速くないのだが、Swarrrmのもつメランコリーが結実した様な曲で、私の体が透明になり、物理的な力持つ音の塊が身体の水分を揺らしている様な感覚に陥り、ちょっと感動で涙ぐんだ。
アンコールが起こるくらいかっこよく、そして短かった。でもSwarrrm見れて良かった。圧倒的だった。もちろんこの日一番。

Stubborn Father
大阪のバンド。「頑固親父」というバンド名が気になっていたバンド。(ユーモアのあるハードコアバンドかなと思ってた。)
まずライブハウスの証明は全部切って自前の青白く光量の多い証明を使っていた。これをステージの真ん中あたり(だと思う)におく。するとバンドメンバーは陰影濃く浮かび上がり、ライトの前にいるボーカルのみ逆光で影法師のようになる。うーん。これは面白い。たしかweeprayもにた様なことやってなかったかな。ボーカルの人は長身で良く動くから見ていてすごい面白かった。
音の方はこちらも激情ハードコアを基調にした激烈なもので、ただし前のisolateと違ってこちらは澱みを速度に昇華せず、そのまま荒れるに任せたスラッジーなイメージ。ギターのアルペジオというか、妙に壊れた感じのつま弾かれるそのコード感が曲の速度にばっちりあってどうかしている感じの美しさがある。相当人気のあるバンドらしく、フロアもとても盛り上がっていた。1曲も結構長いんではないかな。ボーカルの声質は同じ大阪のBirushanahのIsoさんにちょっと似ていてとても良かった。音源、かえば良かったな〜。

念願のSwarrrmはやっぱりすごかった。どのバンドも激烈だったがSwarrrmは一体どこを見ているんだろうな。ちょっとやはり別格的な感じがしました。20年の重みなのかも。20周年おめでとうございます。
GWということもあってSwarrrmもそうだけど、大阪だったり姫路だったり全国色んなところからバンドが集ってきてすごいイベントでした。主催の水谷さん、お疲れさまでした。とても楽しかった。

2016年5月4日水曜日

SPAZZ/Sweatin' 3: Skatin', Satan & Katon

アメリカはカリフォルニア州レッドウッドシティのパワーバイオレンスバンドのコンピレーションアルバム。
オリジナルは2001年に今は亡きSlap a Ham Recordsからリリースされた。2016年にTankcrimsからサイドリリースされた。私が買ったのはこっち。元々気になっていたバンドなのでこのタイミングで買ってみた。CD盤。
バンドは1992年に結成され2000年に解散した。フルアルバムのリリースは3枚のみだが、その他のリリースは膨大でwikiによるとどれも今となっては希少価値の高い音源になっているようだ。この音源はそんなあまたのスプリットやコンピレーションに収録された曲を集めたもの。「Sweatin'3」というタイトル通りこの前に1と2がリリースされている。

全67曲収録されている。ほとんどの曲は1分に満たないからだいたいの音楽性も想像できると思う。速度の速い短い曲で圧倒今に駆け抜けるのはまさにパワーバイオレンス。
また遊び心も満載で内輪のジョークめいた長い曲名や、タダでさえ短いのに映画の一部やヒップホップのトラックを貼付けたようなSEなんかも結構ふんだんに盛り込まれていてユーモアのセンスが常になる。ここら辺は同じパワーバイオレンスバンドのCharles Bronsonに通じるところもある。
ふざけているのは確かにそうなのだろうが、曲の方はくすくす笑いが次第に消えていく様な緊張感に満ちたもの。3人組が織りなすシンプルなアンサンブルはとにかく飾らない。弦楽隊はそれなりに音の重さはあるけど過剰な装飾は一切無しのハードコアなもの。ボーカルは3人全員で担当したとのこと。基本は野太いハードコアパンクスタイルがメインで、中音スクリームに、ギャーギャーわめく高音シャウト、まれにデスメタルいぐろごろボーカルも顔を出す。とにかくベースの存在感が際立っていて、ハードコアらしく以上に研ぎすまされた硬質かつソリッドなもので、こいつがガロンガロンいう。頭に思い浮かぶのはパワーバイオレンスの黎明期のバンドMan is the Bastardだった。こちらはツインではないし、もっと分かりやすいけど音質と雰囲気は結構似ていると思う。ブラストというよりはスタスタ良く回るリズムを高速で軽快にぶっ叩くドラムと相まって大変気持ちがよい。ギターは昨今のこの手のジャンルにしたらやや主張が弱いかもしれない。技術というのでなくてむしろカッコいいんだが、単純にもう少しボリューム挙げても良いかなと思った。個人的には底までスラッシュ成分は感じられない。ざらついた音はさすがに当時からこの手のジャンルの手法をしっかり確立している感じなのだが…もっともここは好みの問題かもしれない。
短い曲で終始叫びっ放しなので当然わかりやすいメロディなんてものは望むべくもないわけで。そうなると断然ストレートに気持ちを高揚させる勢いの気持ちよさに焦点が合わさってくるがここは抜群。また2分台以上の曲は2つ収録されているのだが両方ともカッコいいのは面白い。パワーバイオレンスは速さと重さ、同一ベクトルの両極端を押さえている(中間という意味ではなく先端同士を両立させているという意味で)興味深いジャンルだと思う。SPAZZは速さ2結構な比重を裂いているが、スラッジーなパートもカッコいい。一気にバンドの持つ不気味な部分が音になってのったり出てくるような、そんな意外性にしびれる。特に「Gummo Lobe Theme」の方はそんな不穏さが顕著。

という訳でパワーバイオレンスの歴史を学ぶぞ!という以上に普通にというか普通より大分カッコいいですよ。未だの人はどうぞ。なんせ67曲も入っているんだし、なんか得な気分になりませんでしょうか。

2016年5月3日火曜日

スティーブン・キング/不眠症

アメリカ・モダン・ホラー界の巨匠キングの長編ホラー小説。
以前読んだ「悪霊の島」が馬鹿みたいに面白かったので同じキングのホラー長編を買った次第。原題はそのまま「Insomnia」で1994年に発表された。上下分冊で合わせると1000ページを余裕で越えてくる超大作。

アメリカのメイン集の小さな町デリー。この町に住む70歳の老人ラルフは最愛の妻を病気で亡くしてから自分の睡眠時間が短くなって来ていることに気づく。妻の死で医者に不信感をいただくラルフは図書館に通い様々な解決策を試してみるが起きる時間はどんどん速くなり、ラルフの心理状態は悪化していく。そんな中アメリカで屈指のフェミニストであり活動家である女性がデリー訪問を計画中であることがわかり、妊娠中絶の是非を巡って小さい町では少しずつ不和の種が育っていくのだった…

「悪霊の島」では成功した中年のおっさんが主人公だったが、今作ではなんとさらに年上のおじいちゃんが主人公。最近だとこのブログでも紹介した「もう年はとれない」など、老人を主人公にした小説もなくはないけど、その数は圧倒的に少ないと思う。(自分で読んだのだと後ぱっと思い浮かぶのはマイケル・シェイボンの「シャーロックホームズ 最後の解決」くらいかな…)なぜ老人を主人公に据えた物語が少ないかというとやはり一つにあまり体が動かないという問題があると思う。なんといっても主人公が動かないと物語が進めにくい。この物語の主人公ラルフ・ロバーツもちょっと走ると息が切れてしまうし、体だけならまだしも頭の調子も衰えて来てしまって中々悲しい。いわば書くにあたって高いハードルがある訳だけど、そこはホラー界の巨匠キングということで物語の重要なスパイスを使うことで老人の生活を描きつつ、物語もちゃんと動く様な大胆な仕掛けが施されている。それが超自然、いわゆるスーパーナチュラルな要素になる訳で、これは別に驚くにあたらないと思う。勿論キングのことだからこの”力”というのも微妙なものでどちらかというと人の精神面にちょっとした加速を施すような、そんな形のもの。これが静かな田舎町デリーに忍び込んでくる。物語の筋には妊娠中絶の是非と、それにまつわる女性蔑視についての問題が据えられていて、それが外的な力によって暴走していく。キングはとにかく登場人物の一人一人にストーリーと背景があってそれを描写することにページを丁寧に割いていく。(ので自然に物語は長くなる。)この物語もその形を踏襲していて、要するにキングは超自然を書きたい訳ではないことは容易に分かる訳です。なんとなく心理的なブレーキがかかるところが、不思議な”力”によってたがが外れて暴走していく。要するに異常な事態を書きつつも、あり得る、起こりえる未来を書いているのであってそれの提示がこの人の本文であることはまず間違いなのではなかろうか。
ここでもう一度何故老人が主人公かというと、それは老人がやはり力の弱いものだからだろうと思う。作中でもぼけたと疑われて老人ホームへの入居を息子夫婦に進められる老婦人の何ともエイ内悲哀のエピソードが出てくるんだけど、敬意はもたれているかもしれないが(あるいは敬意というなの敬遠なのかも)、弱くて守らなくては行けないし、ひょっとしたら同じ弱者でも子供と違って年季の入った厄介者という、そういう独特な立場にいるのが老人。ところが勿論体が弱くても、ちょっと記憶が怪しくても彼らは生きている訳で、そして今日も明日も生きていく訳で、その生活には楽しさだって勿論若い人らと全く同じで必要なので。それ忘れがちではないですか?というメッセージのようにも感じた。

「悪霊の島」に比べるとホラーという点でははっきりこちらの方が齢かなというのは正直なところ。(勿論キングなので怖くない訳はないんですが。)ただこちらはファンタジーというか(作中ではっきり「指輪物語」への言及もされているし)、もっと柔らかいイメージがあって、もっというとこれは勇気の話であって(といっても何回か書いたかもだけど常にキングは勇気について書いていると思うのだが)、そうしてヒーローの物語なのである。これについては最後まで読んだ方は頷いてくれるのではなかろうか。自分と家族の命がかかっていた「悪霊の島」とはちょっと違うのかなと思う。勿論ラルフは同じくらい大切な人のために戦ったのだが。ひょっとしたらそこに中年と老年の覚悟後外が合われているのかもしれないな、と考えるのも面白い。
ちょっと長いですが、キング好きで未だ読んでない人は是非どうぞ。派手さを求める、キング初めての人ならまずは「悪霊の島」がオススメかなと。

2016年5月1日日曜日

HELMET/Unsung:The Best of Helmet(1991-1997)

アメリカはニューヨーク州ニューヨークのオルタナティブメタルバンドのベストアルバム。
2004年にInterscope Recordsよりリリースされた。
後続に多大な影響を与えたという意味でアメリカの音楽史上に残る有名なバンドだが私は聴いたことが無かった。この間のKhmerのライブで転換時に流れていたのが気になりCDを購入した次第。どうも2ndか3rdが最高傑作らしいのだが、自分は4thに収録されていた「Pure」という曲(つまり会場で耳にしたのがこの曲)が気になったので、この曲を押さえつつ最高傑作も聴けるベスト盤を選んでみた。なんとなくベスト盤を買うというといかにもミーハーなファンて感じでちょっと恥ずかしい気持ちもある。

音楽学校でジャズを学んだというPage Hamiltonを中心に1989年に結成された。その後メンバーチェンジもありつつ4枚のアルバムを発表し、解散。2004年にはHamilton以外のメンバーを一新し再結成。何枚かアルバムも発表しているようだ。
このベストはタイトル通り解散する前の音源をコンパイルしたもの。
オルタナティブというのは色々な意味のある言葉だが、音楽史ではメインストリームに対しての、という意味で用いられているようだ。だから一言でオルタナティブといってもその音楽性は幅広い。個人的にはオルタナティブ、オルタナというと真っ先に浮かぶのはNIrvanaやThe Smashing Pumpkinsなどのグランジ勢でこれらはメタルというよりは、オルタナティブロックではないかと。
このHELMETの場合はまさにオルタナティブ”メタル”という言葉がぴったりで演奏はがっつり重たく、明るくない雰囲気もあってグランジ勢との共通点も多いけどもっと鈍く重たいイメージである。
中音から低音を強調したリフはスラッシュメタルっぽいが、速さやテクニカルさに磨きをかけた大多数とは明らかに一線を画す。もっとシンプルで良くも悪くも低音に徹している。速さが無い代わりに非常にリズミカルである。非常に肉感的でタフな音楽性はハードコアに通じるところがある。またボーカルも野太い吐き捨てタイプでこれもその時代のメタル界隈とは全く異なった粗野なものだ。こう書くとかなりハードコアな音が想像されるが、ジャズを本格的に学んだというHamiltonの個性もあってか実は変拍子などが導入された曲はフックに富んでいる。ただ基本的にはバンドアンサンブルのみで構成された曲は何回という趣はほぼ無い。インテリヤクザという訳ではないが、噛めば噛むほど味のある曲だと思う。また重たく、リズミカルでシンプルな音、それからハードな中にもキャッチーさがあるという曲に関してはこの後のモダンへヴィネス、ニューメタルなどにもかなり多大な影響を与えた、というところは非常にしっかり来る。私はばっちりニューメタル世代なのでなるほど〜〜という感じ。ちなみにHouse of Painとの共演でラップとの取り組みも先行して取り組んでいたりもする。
次第に艶やかさを増していくボーカルが無骨のバンドの持つ独特のメランコリーさを際立ていている。もっとハードなバンドにもなれたのだろうが(勿論結果的にはそうならなかったのが良かったのだと思う)、なんともいえない愁いを帯びたボーカルがごりごりした音に良く映える。

というわけで私が知らないだけかもしれないが、日本ではそこまで知名度がないばんどなのかも。名前だけ知っている30代前後の方は恐らくこのサウンドから何かしらを感じ取れることは間違いないと思う。未聴の人は是非に。非常にカッコいいです。


SHELTER 25th Anniversary & MINOR LEAGUE 20th Anniversary『北沢爆音祭』其ノSP ラウドにいこうぜ!@下北沢SHELTER

下北沢のライブハウスシェルターの25周年と日本のハードコアバンドマイナーリーグの結成20周年記念ということでWRENCHを迎えてのツーマンに行ってきました。
「『北沢爆音祭』其ノSP ラウドにいこうぜ!」というイベントの昼の部ですね。夜の部はsmorgasとBack Drop Bomb。
12時スタートだったのだが起きたのが11時。着の身着のままで自転車こいで下北沢へ。
お目当てはMINOR LEAGUE。というかこのブログでマイナーリーグに言及するのは初めてではあるまいか。このバンドにであったのは大学生になったばかりの頃だと思う。HMVのサイトでなかなか酷い音質(ぎゅりぎゅりしてたよね。でも当時はあれが普通でした。HMVは3枚買うとお得になるみたいで大分使ったものです。)で視聴して買った「攻め」が初めて。それから常に最新作が最高傑作という希有なバンド。「宇宙内地球紀行」はほんと素晴らしいアルバムなので本当聴いた方が良いです。全部ではないけど音源を買い集めて個人的には大好きなバンド。ところがライブには1回も行ったことが無かったので、今回は個人的にはとても楽しみだった。(寝坊したが)

良い感じのおじいちゃんが番している公営の駐輪場に自転車を止めて、ライブハウスについたのが12時ちょっと前。ギリギリ。

MINOR LEAGUE
待望の!
1曲目は「高見」。雄々しいボーカルが印象的なイントロを聴くと自分でも思っている以上に感動。盛り上がっているのは自分だけではなく初っ端からフロアの気温もあっつい。
ハードコアの枠を越えたハードコアなんだけどライブで聴くと完全に雰囲気はハードコアだ。ストレートで明快、気持ちがよい。非常に激しいけど邪気が無く開放感がある。ツインボーカルが特徴で、これが本当真剣勝負みたいに2人一緒に叫びまくる。どっち聴いたら良いんだよ!!と位にうるさくせわしない。これが滅茶カッコいい。個人的に亨さんの声はちょっと他に無くて大好き。
2曲目「Click to Heaven」になだれ込む。匠さんはとにかく客を煽るのが上手い。暴れろ!ということでフロアのボルテージはいきなり加熱してモッシュの嵐。立て続けに最新作から「アイキャンスピークジャパニーズ(「。not full circle」)」、「DE-DE-DE」。やばい結構もう歌えるくらいに歌詞を憶えている。楽しい。煽られて拳を突き立てる。
匠さんのMCは熱い、そして暖かい。こういうところはやっぱりハードコアなんではなかろうか。SHELTERへの感謝、WRENCHへの尊敬の念が飾らないストレートに語られる。フロアも暖かい雰囲気に。
「長い曲!」とのコールから「Made in Subculture」。超好きな曲。ぶわーっとしたイントロから積み上げていって終盤にかけて盛り上がっていく。なるほどライブで聴くとこうなるのか。後半の加速した混沌っぷりに頭がくわんくわんする。「青い空」はやはり断然盛り上がる。皆で歌う。それからWRENCHのカバー。「Far East Hardcore」というCD(調べてみたら伝説的なコンピとのこと)に収録されている曲だそうだ。WRENCHのボーカルSHIGEさんがゲストボーカルという嬉しいサプライズ。「ぐるなに」、そしてバンド最速の「Last Hope」で〆。とくに「Last Hope」はもうわやくちゃという感じで、縦横に人が飛んでくるし、サーフするしで大変楽しい状態に。
本当あっというまに50分くらいだった。個人的には結構ライブで盛り上がるのは時間がかかるのだが匠さんの煽りもあってか自分の中でもさ〜っとテンションあがって面白かった。攻撃性をポジティブな高揚感に転換しているイメージ。

WRENCH
続いてWRENCH。恥ずかしながら私は名前を知っているものの聴いたことは無い。ドラマーのMUROCHINさんがThink TankのメンバーとやっているHip-Hopユニット「Dooomboys」のCDをかろうじて持っているくらい。
転換が始まるといきなりボーカルのSHIGEさんの前にはシンセサイザーやその他の最新技術の粋を集めた感じのある機材が組まれていく。複雑に接続されたプラグとか、こういうのってもう見た目からしてかっこい。ボーカルにもリバーブというかエコーをかけていてふわふわしている。
曲が始まるともう独壇場という感じ。熱く盛り上げていくのがMINOR LEAGUEなら魅せていくがWRENCH。ハードコアを基調としながらもノイズを重ねることで複雑な音世界を作り出している。まず地のハードコアの部分が相当しっかりしている。驚いたのはドラムの力強さ(本当緊張感がすごかった。)、そしてベースのうねり。ギターはソロも弾く。これらのアンサンブルは非常にしっかりとして音質的にも極めてソリッドだ。ここにスペイシーなノイズが乗ってくる。浮遊感というにはバンドアンサンブルは非常に強固だ。ガッチリした演奏はかなりミニマル。執拗に反復していく中で縦横無尽なノイズが少しずつその力を強めていく。いわばじっくりしみ込んでいく様なかたちで演奏によっていく。やまびこの様なエコーのかかったボーカルも複数重ねたりしていく。(音楽的にはただしくないかもだが)かなりトランス的な雰囲気なのだが面白いのは、少しずつ盛り上がっていく反復性が最高潮にたっすると一気に演奏が爆発的なハードコアに崩壊していく。ボーカルも甲高いシャウトをかます。ライブが進むに連れて爆発までの間隔が短くなっていくのはすごいなと思った。かなり盛り上がる構成。
一通り演奏を終えるとMINOR LEAGUEのボーカル二人とBeastie Boysのカバー。当たり前のように盛り上がり、ピースフルな雰囲気のままライブは終了。

終演後、DessertとMINOR LEAGUEのスプリット(これ持ってなかったんだ!)と熊本への義援金になるポスターを購入。想像していたのよりずっとかっこよかったし、楽しかった!また行かねば。