2016年7月31日日曜日

スティーヴン・キング/ジョイランド

アメリカのホラー作家によるホラー/ミステリー/青春小説。
キングはモダンホラー界の巨匠で、名前を知らない、本を読んだ事ない人でも実は映像作品を見た事のある人は多いのでは。
Amazonなんかでレビューを見ると昔に比べて切れ味が…と書かれる事もあるけど、個人的には特にそうは思わない(私はキングのその人たちの言う黄金期の作品は全部読んでいないのでそう思うのかもしれないが、しかし最近の作品は面白いと思う)わけで新作も全部ではないけど買って読んでいる。
抜群の安心感というのがあって正直ストーリーもあまり見ないで買ったようなところがあるのだが、今回はちょっと変わった本らしい。後書きによると本国ではペーパーバックの形で大手ではない出版社から発売されたそうな。キングの本は通常大手からハードカバーで出されているようだ。ペーパーバックというのは背表紙が安い紙(パルプ)を使った本で、要するに大衆向けな歴史的な側面があったそうな。言うまでもなく私はどちらかというとこういった本が好きなのかもしれないね。もちろんファックハードカバーなんて思っている訳ではないんだけど。

1970年代ニューハンプシャーの大学に通う19歳の苦学生のぼくことデヴィン・ジョーンズは夏休みにノースカロライナ州の海辺の町にある昔ながらの遊園地「ジョイランド」でアルバイトを開始する。意外にもショウビジネスの興味と才能がある事を発見しつつあるジョーンズ。この楽しい田舎の遊園地のお化け屋敷にはしかし、女性の幽霊がいるらしい。むかしそこで殺人があったのだった。事件に惹かれるジョーンズだったが、どうも最近は彼女との連絡が上手く取れなくなって来て…

青春小説はあまり読んだ事ないのだが、この物語がそのジャンルにカテゴライズされるというのは主人公が19歳というのもあるのだろうが、おそらくはそれだけでは不十分だろう。要するに主人公は手ひどい失恋をおい、アルバイトに打ち込む。自分とは無縁だったショウビジネス、それも洗練されたものではなく昔ながらのあったかいヤツにのめり込んでいって周りの大人たちに揉まれながらも”大人”になっていく。という物語。ご多分に漏れず美女(というか大人の女性)も出てくる。書いてみるとなるほど物語としては典型的なものなのだろう。特に目新しさはないのだけど、流石キングということでこのありふれた筋を見事に調理して一流のストリーテラーとしての才能を遺憾なく発揮している。
細かい描写と小さな出来事の積み重ねを丁寧に書いていく事で、行き来としたキャラクターを描き出し、彼らが縦横に動く事で物語が魅力的になっている。ここら辺はもう熟練の息ではなかろうか。
くわえてこれまたキングお得意のダークな要素を取り入れる事で、ありふれた青春小説をとてもオリジナリティのある物語にする事に成功している。この本は350ページでキングの小説とすると短いくらい。程よくコンパクトにまとめているな、というのが第一印象で、具体的にはキングお得意の暗さもやりすぎないように”ふしぎなはなし”というくらいに抑えられている。遊園地で起こった殺人事件が軸を貫いているのだが、あくまでも生活は主人公ジョーンズの毎日のリズムで進んでいく。何の変哲もない主人公が事件に巻き込まれるのはなんかの類型になっているが、実際起こりそう(ちょっと厳しいかもだけど)ってのはこの話くらいがギリギリなんじゃないかと思った。
正直言うと彼女にふられるというのはすごく大変な経験なのはうなずけるのだが、こんなに凹むのはどうなのだ、と思ってしまったのだが、主人公がくよくよするけど行動するから物語が動く分そこまで気にならなかったのが良かった。
実は現代に生きる主人公が70年代の自分を振り返って書く、というのも何となく物語にこれから起こるぞと読書に渓谷式を引き締めさせるという効果に加えて、若さに対して客観性を持つ事である程度としくった捻くれた(つまり私の様な)読者に取っ付きやすいようにしているのではと思った。

キングの作品というともうちょっとの暗さを求めてしまうのが私なのだが、読み物としては十分楽しめた。キングは長いからちょっとという人や、さくっと海外小説の面白いの読みたいという人は手に取ってみても良いのではないでしょうか。

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