2016年7月3日日曜日

ジェイムズ・エルロイ/LAコンフィデンシャル

アメリカの作家による警察小説。
「ブラック・ダリア」、「ビッグ・ノーウェア」に続く「L.A.四部作」の第三作目。ハリウッドで映画化された事もあるので、ひょっとしたら一番知名度があるのではなかろうか。(たしか「ブラック・ダリア」映画化されているが、こちらの方が古いはず。)かくいう私も大分昔、恐らく高校生くらいの自分、金曜ロードショーかなにかで見た記憶がある。(が、幸か不幸かほぼ中身を忘れていた。)
長らく絶版状態だったが、エルロイの新作リリースに合わせて電子書籍のフォーマットでのみ再販され、これを購入。

1952年のアメリカロサンゼルスで深夜営業のコーヒーショップ「ナイト・アウル」に深夜強盗が押し入り、店にいた従業員と客合計7人がショットガンにより虐殺された。捜査にあたるのはLAの伝説的警官ダドリー・スミス、女性に対する暴力に過剰に反応するバド・ホワイト、ハリウッドと繋がりのあるごみ缶ジャックことジャック・ヴィンセンス、連続幼児殺人事件を解決し今は建設業界でのし上がった父親に尊敬と複雑な感情を抱くエドマンド・エクスリー。捜査線上には早くから若い黒人が浮かび上がるが…

相変わらずクズばかりでてくる警察小説。
とくに主人公の一人、エド・エクスリーが良い。こいつは卑怯者で不正を正すという名目で自分すら騙そうとしているが、その実出生のために仲間を売るクズなのだが、物語が進むに連れて彼を好きになってくる。といっても彼が成長して心を入れ替えるという訳ではない。むしろ泥沼のよな50年代の裏側にはまり込んでその純真さをどんどん失っていく。その失っていく様が美しいのではない。彼の信じていたものがどんどんその輝きを失っていき、余裕が無くなっていく様が良いのだ。やたらと成長が叫ばれる昨今、正直言って不実の良い訳のように使われている様があっていい加減ウンザリなのだが。やはり人は成長なんてしない。ただ過去によってその行動が決まり、今をごまかし乗り切るために方便が上手くなっていくだけだ。そしてその方便が次第に自分の体に馴染んで来てその本人になる。自分は方便を使っているつもりだが、気づけばそれはもう皮膚のようになって脱ぐ事なんて出来ないのだ。
中でも抜きん出ているのがダドリー・スミスで今回読んでて思ったがコイツだけは埒外で動いている。こいつは名誉・金(不思議と女には執着しない、もしくは意図的にそういう描写がされない)を追い求めているが実際にはそれに執着していない。勿論異常な我慢強さを持っていて、最後に笑うのは俺だと思っているところもあるのだが、なんとなく金も名誉も子供のプライズ程度にしか考えていない気がする。頭脳明晰(有色人種に対するレイシストぶりを隠そうともしないが、実際はそれは自分の犯罪を隠すための道具に使っている節がある)で緻密、とにかく人をそうと思わせずに操る際に長けている。ところが頭は良すぎるが大胆過ぎて、かなりとんでもない事をやっている(例えば共生関係にあるギャング、ミッキー・コーエンの金とドラッグをあっさり横からかすめとったり)のに、その悪事が露呈する可能性は放っておいているようにみえる。要するに危険中毒であり、もっと言うと恐らくサイコパスなのではなかろうか。今回は前作に比べると直接的な描写はむしろ減っているのだが、エドの越える事の出来ない壁として常に陰謀の背後にいる訳でその不気味さが際立っていた。
私はこの後に続く「ホワイトジャズ」は読んでしまっていたのだが、これはもう一回読まないとなと思っている。しかし次のシリーズも気になるし、最新作も気になるし。とにかくエルロイの作品というのは露骨に他の作家では代用できない。
という訳で滅茶苦茶面白いし勿論オススメなのだが、可能ならば四部作の始め「ブラック・ダリア」から、難しい場合はせめて「ビッグ・ノーウェア」から読んでいただきたいです。

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