2016年7月16日土曜日

Terra Tenebrosa/The Reverses

スウェーデンはストックホルムのブラックメタルバンドの3rdアルバム。
フランスのDebemur Morti Productionsから2016年にリリースされた。
2009年にスウェーデンのハードコアバンドBreachが解散した後にメンバーが結成したバンドで今までに2枚のアルバムをリリースしている。私は何を切っ掛けに知ったのかもう定かではないが、前述の2枚のアルバムを購入しその独特な世界観が気に入っている。今回はデジタル版を購入。

ブラックメタル自体メタルの中でも変わったジャンルだと思うが、このバンドはそんなブラックメタルのジャンルでも結構変わり者という印象。コープスペイントを施したり、フードで身を包んだり、宗教・神話や指輪物語などから一風変わった名前を拝借したりとブラックメタルではある種の匿名性と言うか、非人間性(人間ではないなにかになるという意味で)が重要なファクターになっている。(勿論普段着かつ本名でブラックメタルをやっている人たちも沢山いるだろうが。)一般には神秘性とか言われたりもする。このバンドはフロントマンのThe Cuckooは黒いぴったりしたコートにその身を包み、顔を小鬼のような兎のようなマスクで覆っている。他の2人のメンバーは黒子の様な格好をしている。(ここら辺はちょっとオールドスクールドゥームロックバンドGhostにも通じる事があるね。彼らは音的にはブラックメタルではないけど明確に反キリスト的な世界観を構築している。)この衣装に彼らの音楽的な(ならす音以外の表現も含めての)アティチュードをかいま見る事が出来る。それは言うならば直接的な血や暴力ではない、一風変わった暗い、悪夢めいた世界観である。ちなみにバンド名は「黒い地球」という意味ではなかろうか??(違うかも)
プリミティブとは一線を画すクリアかつモダンな音作りだが、曲の速度は中速ほどで早くも遅くもない。勿論激しい音楽である事は間違いないが、単純に速度や曲調を使って残酷性を表現している訳ではない。MVも作られている「The End is Mine to Ride」はそんな彼らの世界観をコンパクトに凝縮していると思う。

絶叫からはじまるイントロ(このイントロだけで購入を決めた、とてもカッコいい。)は重々しく激しいが、そこに何とも浮遊感のあるギターのフレーズが侵入してくる。不穏である。重苦しくこちらに向かってそそり立つ圧迫感のある壁が、実はその表面が撓みきしみ、震えている様な、そんな寄る辺のない不安感がある。そこにリバーブのかかったボーカルが乗ってくる。存在感があるがどうにも煮え切らない様な暗いウィスパーボイスは背景の音の厚みもあって非常に聞き取りにくい。どうも何か不吉な事を言っているらしいという事は分かる。このうねるような黒さはオーストラリアの暗黒Portalに似ている。(両者ともにビジュアルに配慮している。)あちらはキテレツかつ超絶技巧な変幻自在リフでデスメタリックにクトゥルーの触椀的な黒さを表現していたが、こちらは全体的な雰囲気で模糊とした世界を構築している。ポスト感といっても良いのだろうがよくもまあこうやって気持ち悪くブラックメタルの表現の中に閉じ込めたものだと感心する。

ラストの「Fire Dances」は16分に及ぶ大曲だが、その他の曲は概ね5分程度にまとめられていて、分かりやすい音像ではないものの難解さやアート性で煙に巻く様なかったるさは皆無である。繰り返すがこれは悪夢なのだと思うと非常にしっくり来る。森に沈んだ廃屋にマスクを付けた異形がたっている。このアートワークは非常に良く出来ている。これはつまり入り口であって、その音楽は非日常である。とても物語性があると思う。やっぱりカッコいい。とてもオススメ。

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