2016年12月17日土曜日

マイケル・バー=ゾウハー/復讐者たち

イスラエルの作家によるノンフィクション。
作者のマイケル・バー=ゾウハーは政府の報道官だったり、兵士だったりと多彩な経歴を持つ人で、作家としてはスパイ小説も書くがノンフィクション作家としても活躍している。この本はそんな中の一冊。1967年に書かれた本で、日本では1989年に発売されている。絶版になっていたがハヤカワ文庫の補完計画の一冊として去年復刊した。この補完計画も気づけば何冊か読んでますね。

原題は「The Avengers」、「復讐者たち」はストレートな訳。何に対する復讐かというと、ナチスに迫害を受けたユダヤ人たちの、である。「復讐とは甘美な感情である」というのは沙村広明さんの「おひっこし」だったか、軽い気持ちで読んだらこれがなかなか感想を書くのが難しい本だった。
元々私はナチスのユダヤ人絶滅計画に関してはほとんど無知であって、一番有名な「夜と霧」も読んだことがない。ただ例外的にプリーモ・レヴィの「これが人間か」を読んでヤバいくらいのショックを受けたことがある。これは強制収容所に入れられた作者の実体験をもとにした壮絶なノンフィクションで、入ったら最後99%死ぬという絶滅収容所の実態とそこでの収監者たちの暮らしが書かれている。
この本は戦後直前から戦後今に至るまでの、いわば絶滅収容所の後にナチスに報復すべく立ち上がった人々についてを描いている。いわばやられる一方だったユダヤ人たちが弱腰の連合側の手緩い対応に業を煮やし、時には非合法な手段をもとり攻勢に出た姿を描いている。そういった意味でも「これが人間か」に比べると動きのあって、なんならスカッとする内容に違いないくらいの野次馬根性で手を出したわけだがこれがなんとも裏切られることになった。
以下に書くのは(あたりまえだが)私の個人的な感想であることを改めて断っておく。
一つは何と言ってもナチスの残虐さ、その酸鼻を極める所業にはまずもって気分が悪くなる。当然殺されそうになった、または家族を殺された、友人を恋人を殺されたユダヤ人たちは復讐に燃え、実際に雪辱を晴らすわけなんだけどこれがすっとすることがほとんどなかった。前述の通り満足な国際的な支援が受けられなかったから私的な制裁を加えていくのだけど、これは私には気持ちの良いものではなかった。
一体日本人というのは昔から復讐が大好きで、武士の時代には仇討ちが合法どころか立派な行為でもあった。私も復讐は好きだが個人的にはっきり私的な制裁には反対である。理由としては人はおおよそ間違うものだからだ。ただし法的機関が常に個人に対して万能であるから時にやむ得ない場合というのもあるのかもしれない。そういった時は誰かが復讐するのは止める気はないが、復讐を果たした後その人ははっきりと社会的な制裁を受けるべきだ。そもそも社会的な制裁が期待できないから私刑に走るわけで、そんな事情もわかるのだけど、みんながみんな私的な制裁に走ったら社会はどうなる?私は個人を説得するために社会を持ち出す卑怯な大人になってしまった。しかしやはりここは譲れないところでもある。人間は間違うし、碌でもない奴はいるものだ。そんなやつら(もいるのに)に私的な制裁を与えることを許してしまうことはできないと思う。
もちろん私は三食昼寝付きで安穏と暮らしている。自分が殺されかけたこともなければ、親しい人たちを理不尽に奪われたこともない。人種的に絶滅の危機に瀕したユダヤの方々の気持ちは根本的に理解できていないからこういうことが言えるのだと思う。私も同じ立場にあったら復讐しないにしても復讐しようという同胞がいたら応援するに決まっている。ただ私は部外者で、やはりそういった行為を読んでみても素直に応援する、という気持ちにはなれなかったのだ。
また作者の書き方もこれはどうしても仕方ないのだけど、復讐者たちは普通の人間であることが強調されていて、それどころか優しく穏やかで復讐したことで殺人を犯した過去を悔やんでいる(ただ後悔はしていない)と一様に表現されている。いわば皆完璧な人間で全ての復讐はクリーンかつ正当なものだった、正義だった、と書かれているわけであって、これにはうーむ、と感じてしまう。完璧に優しい人間がイギリス軍人に化けて、ナチスの高官の家を強襲、拉致した上で罪状を読み上げて殺すのだ。何かがおかしい。無論このおかしさが、ナチスによって歪められたユダヤの方々の苦しみの歴史の証左に他ならないわけだけだ。今更話し合いで解決できるわけはもちろんないだろうが、全ての復讐はクリーンだったのだろうか。それはクリーンで素晴らしかったと日本人の私がいっていいものだろうか?
私はナチスの戦犯を許せといっているのではない。彼らに対しては罰がふさわしい。それは極刑かもしれない。「これが人間か」にはユダヤ人たちが出てきた。絶滅収容所で生き残ろうと足掻く人間たちだ。彼らは善人だったのだろうが、収容所という環境がそれを許さなかった。生き残るというのはたくましくなければいけなかった。時には囚人同士で騙し合うこともあった。それがその地獄のような環境が戦争という忌むべき異常状態を端的に表現できていた。「復讐たち」ではそんな収容所に入れられた人の恨みを入れられなかった人が晴らすわけだけど、復讐者たちのやったことが全部正義だったのだろうか。

なんともモヤモヤした気分を抱えてしまう本だった。つまらないというのではもちろんなかったのだが、なんともすっきりしたとは言い難い。それが戦争の辛さなのかもしれないが、それなら「これが人間か」の方が痛烈にそれを感じることができた。
難しい本だと思うし、いろんな人に読んでもらって感想を聞きたいと思っている。

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