2017年1月22日日曜日

Ben Frost/The Wasp Factory

オーストラリア出身で今はアイスランドのレイキャビックで活動するミュージシャンのアルバム。(何枚目なのかわからない。)
2016年にBedroom Communityからリリースされた。
Vampillia経由で確かその名前を知って2014年作「A U R O R A」で衝撃を受け、その前作に当たる「By The Throat」を買って聞いたりしていた。美麗な轟音ノイズというとわりとありふれた表現でともすると陳腐だが、見事にその言葉に叶う音楽を演奏している。

Ben Frostの新作!ということで特に視聴せずに買ったのだけど結構内容がびっくり。
まずタイトルの「The Wasp Factory」だが、これはもともとイアン・バンクスという人の小説で1984年に同じタイトルで発表された。どうもサイコパス気質の少年を主人公に据えた物語らしく大変興味をそそらられる。日本でも「蜂工場」というタイトルで邦訳出版されているが、残念ながら絶版状態。ちなみにイアン・バンクスは「フィアサム・エンジン」というSFも書いていてこちらは漫画「BLAME!」の元ネタの一つになっているとか。こちらも読みたいが絶版。
おそらくBen Frostはこの物語に影響を受けて公式か非公式なのかはわからないが(ちなみに作者イアン・バンクスはすでに逝去。)、コンセプチュアルに作ったのが、もしくは架空のサウンドトラックとしてかもしれないが作ったのがこの作品ということになる。
Ben Frostといえば(少なくとも最近の2枚では)一聴したところ全く取りつく島もない(よく聞いてみると実はそんなことないんだけど)轟音で暴力的なのはもちろん、不穏な心の機微を保涌現したかのような不思議な繊細さを持ったノイズを作り出している人なんだが、今作はそんなノイズ成分・インダストリアル要素はなりを潜めている。そしてその主役たるノイズの代わりに女性ボーカルが大胆にフィーチャーされている。つまり歌詞があり、これはイギリスのプロの劇作家であるDave Pountenoyという人に依頼したらしい。つまりサントラというより声のみで構成された劇、ということになるのだろうか?
ほぼ全編女性ボーカル(二人の女性と一人の男性のようだ)が、どうも主人公による一人称で書かれている(らしい)小説に則り、主人公の少年の視点で歌っているようだ。
いわゆるポップソングのそれとは違う歌唱法、おそらくオペラの形式で歌っている。まずは声量がとんでもない。そして伴奏が非常にシンプルだ。シンプルというのは簡単というのではなく、レイキャビックのオーケストラを持ち込んでいるが、削ぎ落とされた演奏はほぼ小節や節なんかが判別できず、散発的なストリングス、そして地を這うようなドローン要素のみ。よくこんな無愛想な伴奏でこうも伸びやかに歌えるものだと感心する。
大仰だが、バックトラックは不穏でむしろ寂しい、空虚な感じがする。ボーカルはひたすら感情的だが、やはりどこかおかしい。言葉がわからないのにどこかおかしいと感じさせるのだからすごいものだ。筋はわからないがよくないことが起こっているのだということはわかる。主に独白、そして時に二つの声が葛藤するような喧嘩調になったりする。不気味で怖い。ねっとりとした暗い闇をモタモタ溺れているような魅力を備えている。全編を通して表現されているのは、発生された力強い声が漆黒の無辺の闇に吸い取られていくような寄る辺のなさ、虚無さ。

私は古本苦手なんだけどさすがに内容がきになるので「蜂工場」買ってみようかと。内容としては昨今のBen Frostを期待すると(ただ私は彼の古い音源を聴いていない。どうも音楽だけでなく劇の方にも接近している人のようだからちゃんと彼を追っている人からしたら別にこの作風驚くに当たらないのかもしれぬ。)、ちょっとビックリするだろうが、私はむしろ言語化されて(彼自身の言葉ではないのだが)わかりやすくなったBen Frostの音楽性が感じ取れて大変気に入った。そういった意味では前作が気に入っている人なら違和感なく聞けるのではないだろうか。音楽に暗さを求める人は是非どうぞ。音楽性は違うがドゥームバンドのSubrosa好きな人なんかもバッチリ刺さるのではと!非常にオススメです。

0 件のコメント:

コメントを投稿