2017年3月25日土曜日

マイクル・コナリー/転落の街

アメリカの作家によるハードボイルド/警察小説。
この作者の作品は初めて読む。面白そうなあらすじと良い評判で購入。

LAPD(ロサンゼルス市警)強盗殺人課未解決事件班で働くハリー・ボッシュ。彼は60歳の定年を迎えたあとも定年延長選択制度により警察で働き続けていた。ある日1989年に発生した19歳の女性の暴行殺人現場に残された血液が前科のある人物のそれと一致することが判明。ところがその人物は当時わずか8歳であった。ハリーと相棒のチューは一筋縄では行かなそうな雰囲気を感じつつ事件に取り組む。しかし時を同じくして警察に対して大きな権力を持つ市議の息子がホテルから転落死を遂げ、市議は因縁のあるハリーに捜査の指揮をとれと直々に指名してくる。政治の絡む事件は複雑だ、頭を抱えつつハリーは二つの難事件に挑む。

ハリー・ボッシュを主人公とした一連のシリーズのなんと15作目!ということだ。前述の通り作者の他の作品は読んだことがない。
とにかく読みやすく、また物語も謎に次ぐ新たな謎といった展開でのめり込ませる求心力は相当。ストーリーが練られていて破綻なくきちんと収まるところに収まる、という警察小説の見本みたいな小説。上下に分かれているが結構あっという間に読むことができた。
じゃあ面白かったかというと実はそんなことはなかった。上巻を読み終えるところまでは楽しいな〜という感じだったのだが下巻を読み進めるうちに頭に疑問符が浮かんでしまった。よくできているがゆえに綺麗に収まりすぎている印象。円熟しきってしまっているような。全ての物語は作為的であるから、だいたい筋があってそれに沿って事件や出来事登場人物が並べられるのだけど、それでも一つ一つはいかにも偶然によって噛み合いつつ、現実と同じようにラストに向かって落ち込んでいくわけなのだけど、この小説はどれもスムーズにいきすぎていてどうにも感動が薄い。明らかに都合が良すぎ。女にモテるボッシュ(なんかめんどくさい女に振り回されて困るそぶりを見せるけどあくまでも女の方がめんどくさいという男臭い書き方)、片親だけど娘と良好な関係を保っているボッシュ、押しが強く仲間思いだが手柄は独り占めにしたいボッシュ(それならそうといえば好感持てるのに)、自分の能力に衰えを感じるけど崇高な正義のためには結局働き続きたい強いボッシュ(やる気がないのが悪に直面して奮い立つならいいけど、能力不足だけどやっぱやるわってどうなんだろう)とにかく主人公ボッシュが強すぎ。別にジャズが好きな家に帰らない父親に対して理解のある高校生の娘がいたって、女にモテても、若い部下が使えなくても、喧嘩に強くても全然良いんだけどそれらが全部のせ!ってなると読んでいるこっちは冷めてしまう。ちょっと前から北欧の警察小説が盛り上がっているけど、ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダーシリーズをあげるまでもなく、凄惨な事件とそれを追う刑事の個人的な問題を一緒の直線上に乗っける手法が今では結構メインなのかもしれない。どれもそんな作りだった。この小説だと老年を迎えるハリーにもそんな色々な悩みがあるんだけどどれも本当っぽくない。全部がそうすることで小説が盛り上がるんでしょ?って計算で配置されている感じ。(前述の通りそれ自体は悪くないんだけど書き方がおざなりすぎて本当っぽさがないんだ。)
個人的には警察小説の面白さというのは、善悪という概念に対して絶対的正義の側にある警察官が矛盾を感じつつも、現実的な事件を落着に落とし込まなければならない、というその葛藤にあるわけで、この小説はそれがあんまりない。さすがに一番最後で組織の正義と、個人の正義の対比を持ってきてそこはさすがに抑えてきたか、という感じだったけどそれも技巧的にしか感じられなかった。初めっから正義を盲信しているみたいでなんだかな…という感じ。主人公は色々悩んでいる、迷っている、と書いているのだけど本当の失敗は実はしていない。本当に恥ずかしい思いはしていない。”かっこよさ”の殻に守られていていたい目には合わないようにできている。だから読者の私はそんな彼に共感できないというか、逆に「うげー」となってしまったのである。ひょっとして私は異常に嫉妬心が強くてひたすらイケメンが活躍する話にジェラシーを燃やしているだけなのだろうか?と地頭してしまった。それとももっと凄惨な話でないとぐっとこないのだろうか?

読みやすいからといって面白い小説は限らないんだなあと思った。これが世間一般にひどい小説だとは言わない(個人的にはそう思っているけど)けど、小説というかフィクション、というかノンフィクションでもいいんだけど物語に何を求めるのか、ということで私には合わなかったようだ。ただ非常によくできたうまい小説だと思う(ドラマ化されたり人気はすごいあるみたい)ので、ひたすらおじさんが活躍する物語を読みたいんだ!という人にはうってつけではなかろうか。私はもうこの人の小説はこれだけで良いかな。

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