2017年4月2日日曜日

ジェイムズ・エルロイ/ホプキンズの夜

アメリカの作家による警察小説。
原題は「Because the Night」で1984年に発表された。
刑事ロイド・ホプキンズシリーズ「血まみれの月」に続く第二弾。

ロサンジェルスの酒場である夜人が殺された。酒場の店主、そして客が二人。一列に並ばされ、そして頭を大口径の銃で撃たれていた。
LAPDの一匹狼の刑事ロイド・ホプキンズは事件の捜査に当たる。しかし証拠は極めて希薄で捜査は前途多難の相を呈している。そんな中変装の名人で「錬金術師」の異名を持つ警察官が実はしばらく前からその姿を消していることが発覚。事件の匂いを嗅ぎつけたホプキンズはそちらの捜査にも乗り出すが…。

アメリカ文学会の狂犬と称され、自身もドラマティックな出自を持つ作家ジェイムズ・エルロイの小説。「血まみれの月」を読んだのはだいぶ前だが作中の宿敵の歪んだ精神は強烈だった。濃厚な小説だった。非常に残念かつ不可解だが、そのホプキンズシリースは今では絶版状態である。(当時「血まみれの月」だけは買えたのだが、今ではそれも絶版のようだ。)しようがないから中古で買った。(可能なら新品が良いんだよね。)
熱心なエルロイファンとはとても言えないが、いくつかの作品を読んでそして非常に楽しめた。エルロイの書く小説はその凄惨さにまず心と目を奪われてしまうが、実は非常にロマンティックだ。いわゆる「ハードボイルド」とカテゴライズされるジャンルの中でのアメリカの一つの理想である”強い男”の物語であって、それがなんらかのプレッシャーで著しく歪んでしまい(それが非常に激しく損壊された死体に現れる)、それでも崩壊一歩手前で虚勢を張っている、そんな趣だ。そう言った意味でロマンティックで自己本位だし、それが異常に濃厚である。だがそれが面白い。異常な輝きを放っている。
今回はそのエルロイのロマンティックさが色濃く、そしてわかりやすく現れている。凄惨な過去があり苦悩とトラウマ(トローマ)を抱えているホプキンズは、体躯に恵まれ、頭も異常に切れる(IQが人並外れて高い、という客観的な説明が付与されている)、非常にアンバランスで作中では明言されないが、常識を超越した理論で動いているシリアルキラーたちとどこかで同調している。乱暴さと知性、正義と悪という矛盾を内包してはち切れんばかりになっている危ない男。まさに男の子の考える理想なヒーロー像なわけだ。キャラクターの個性を他のキャラクターに喋らせるなど、結構ストレートな表現がされている作品だなと思う。この本はエルロイの5冊目の本らしいから、まだまだ円熟の域に達していない頃なのだろう。
ホプキンズ自身は女漁りがひどい(ただしこの作品ではその要素は皆無)し、家族とは離れて暮らしている、そして独断専行で動くだけでそこまで問題がない。また警察内部の混乱もほぼ皆無。例えば「ホワイト・ジャズ」のようなもはや悪人としか呼べないような悪徳警官たちの権謀術数入り乱れる作品とは明らかに一線を画す。単純な反面非常に読みやすい。物語が直線的なのでただページをめくるだけで良い。
ただどろっとした熱い激情(血と汗と精液となってほとばしる)によって突き動かされる登場人物たちはすでに健在で、そこでは理詰めではない偶然と思いつきと、忍耐と暴力が支配している。理路整然とはしていないわけで、読者はわからない方程式で動いている彼らは異常である。はっきり言って狂気の沙汰なんだけどそれが面白い。思うに説明不可能な情熱を燃やされる方がいい。その情熱の正体はもちろんわからないのだけど、そう言ったこだわりがあることはもちろんじゃん。それが体温であって、それが伝わってくる創作物は私からしたら最高なのである。

濃い物語が好きな人は是非どうぞ。エルロイ好きの人も中古でいいなら是非読んでみてほしい。殺人鬼の異常さに関しては前作「血まみれの月」に軍配があがるが、登場人物が全員非常にめんどくさいトラウマ地獄の様相を呈する今作も非常に読み応えがあると思う。

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