2017年5月4日木曜日

ケン・リュウ/ケン・リュウ短編傑作集1 紙の動物園

中国出身アメリカ在住のプログラマー兼弁護士兼作家の短編小説集。
日本オリジナルの短編集で単行本として2015年に発表されるや否や結構な話題を読んだ本。芸人で最近は作家としても活躍する又吉直樹さんが紹介したことで有名になったみたい。(私は又吉さんがNHKでやっているオイコノミアという番組をたまにみる。)Amazonがオススメしてくるので気になっていたけど、最近文庫本になったのでこのタイミングで買った。どうも文庫本を二つに分割しているようだ。
作者ケン・リュウは中国からアメリカへの移民でハーヴァード大学を卒業したのちマイクロソフトに入社、プログラマーとして独立した後弁護士になったりと、知性とそれを活かす行動力を持った人のようだ。今は作家がメインだと思うがアプリを作ったりもしているみたい。

表題作の「紙の動物園」はヒューゴー賞とネビュラ賞、それから世界幻想文学大賞というアメリカの優れた文学作品に送られる賞を三つ獲得したという。これはなんとそれらの賞が始まって以来の快挙だとか。
あとがきによるとこの分冊本に関してはファンタジー寄りの作品を選んで集めているというからなんとも言えないが、この本を読む限りSFらしい”もしも”の世界での至極個人的な出来事を物語にする作風であって、登場人物があえて限られていること。彼らの行動や心中の動きが物語の主題というか原動力になっていることなどが結果作品の間口を広げ読みやすさを生んでいると思う。なるほど日本でも重版になるのが理解できる。その近しい世界でしかし、絵画に例えると遠景に書き込まれている景色が異様なのである。異様というほど異様ではないのだが(これは作者の柔らかいタッチの文体が大きく影響していそうだ)、やはりちょっとSF好きの心をくすぐる設定が垣間見える。日本とアメリカを結ぶトンネルだったり、緻密なプログラミングがAIを思考するとそこに生まれるのは知性なのか?という問題、あるいはもっとわかりやすく宇宙漂流者と原住民のふれあいだったりと。これらの書き方がSF作家にありがちな大仰なもの(これは個人的には好きなんだけど)ではなく、あるものないものにもかかわらず技術の説明は読者がわかる程度であくまでも簡潔に留められている。
自身の出自を生かした中国、もう少し広げてアジア的な観点をたい程度の物語にも入れており、アメリカン人からすると異国情緒というのが感じられるのかもしれない。私からすると日本の描写もあまり違和感がないし、日本以外のアジアの国の描写も新鮮であった。要するにケン・リュウは異なる二つの事柄(文化というのが大きいが、「愛のアルゴリズム」は文系と理系、父性と母性だったり、「心智五行」は文化にプラスして未来人と原人を対比させていたり)を一つの短い物語の中でぶっつけてそこに生じる衝撃や波紋を描いている。しょっぱなに置かれた「紙の動物園」でうお〜となったが、その他の短編は非常によくできているけど、ちょっとよく出来すぎかなと思ってしまった。私はたとえ間違っていても、多少読みにくくても作者の思い入れが詰まっている作品が好きなので、ケン・リュウの巧みだがあまりに綺麗にまとまりすぎている感のある小説群は、もちろん楽しめるし嫌いというのではないけどそこまでかな…と思っていた。ところが最後にくる「文字占い師」では今までの綺麗な作風を維持しつつもかなり苛烈な領域に子供の目を通して踏み込んでいく。しかも史実(そんな昔ではない)がその底にあるという。ケン・リュウの激しい怒りのようなものを垣間見れて非常に面白かった。SFというと私はとにかくアメリカ、欧州の作家の手によるものを読むのがほとんどだ。ケン・リュウは巧すぎて少し物足りないかなと思ったのは、ひょっとしてアメリカ、ヨーロッパにはないアジア的な慎みの文化がその作品にも滲み出ているのかもしれないと思った。

というわけで中盤合わないかと思ったがラストで引き込まれた。分冊ということもあるしもう一冊の方も読んでみようと思う。巧みなSF、ファンタジーが読みたい人は手に取ってみると良いと思う。非常に読みやすい。

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