2017年6月18日日曜日

Wear Your Wound/WYW

アメリカ合衆国はマサチューセッツ州エセックスのハードコアバンドの1stアルバム。
2017年にDeathwish Inc.からリリースされた。
Wear Your WoundsはアメリカのハードコアバンドConvergeのフロントマン、Jacob Bannonによるソロプロジェクト。Convergeのボーカル以外にも非常に影響力のあるレーベルDeathwish Inc.を運営したり、自身のバンドのアートワークも手がけるグラフィックデザイナーと活動しているJacobが新しく(と言っても2010年ごろから始めたらしい。)始めたのがこのバンド。全ての作詞作曲は彼が手がけている。この音源の録音は盟友Kurt Ballouが手がけている。ライブも結構頻繁にやっているようで、ライブは録音ではThe Red ChordやTrap Themのメンバーがヘルプとして入っているようだ。

ハードコアという範疇以外でも非常に大きな存在のConverge。日本ではThe Dillinger Escape Planと並んでカオティック・ハードコアという言葉(ジャンル)で紹介されていた。(今ではどうなんだろ?)基本的には激しいのだが、アルバムによってはなんとも哀愁のある曲をプレイする。例えば「Axe to Fall」の「Wretched World」(このアルバムで一番好き)とか、名盤「Jane Doe」の「Jane Doe」、「No Heros」の「Grim Heart/Black Rose」などがパッと思い浮かぶ。曲の速度もそうだが、その他の曲とは一線を画す世界観で私は激しい曲と同じくらいこれらの楽曲が好きだ。Jacobがソロをやってしかもその世界観はConvergeのそれとは違ってくる、というので俄然Convergeの前述の曲群が頭に思い浮かんだわけ。そう言った期待感で聞いてみると、やはりConvergeの激しさは皆無。でConvergeのゆっくりした曲とは確かに似ているのだけど、半分くらいで後の半分はそれとも異なるような要素が感じられる。じゃあそれは何かと言うと、一言でいうと”ポスト感”だろうか。ただこれも型にはまったそれらとは異なる、独自の方向性を持ったものだ。基本的にはバンド形式で曲が構成されているが、アコースティックギターやピアノを始め様々な楽器を取り入れていること。速度は基本ゆっくりで比較的長めの曲をやること。歪んだギターは頻繁に出てくるもの攻撃性はほぼないこと。こうやって書くと美麗なポストロックという感じがしてくるのだが、このプロジェクトの志向する世界はもっと曖昧である。メロディはあるが決して前面に出てこない。カーテン越しに呟いているようなボーカルもどこか個人的でわかりやすい共有がない。分厚いギターのトレモロと言ったキャッチーさもない。もっと儚く、その真意にはたどり着きがたく感じる。拒絶されている、といよりは個人的な感じがしてなかなか読み取れないのだ。
一言で表現するなら「ノスタルジー」だろうか。もちろん私は生まれも育ちも日本なのでJacobとは世界観を共有はしていないのだが、ゆったりとした曲調の向こう側に何かしら色あせた風景が蘇ってくる。長らく誰もいない家(廃屋と言うほど荒廃していない)で見つけた家族のアルバムを眺めているようだ。経年でくすんだ写真一枚一枚に(私がよく知らない)ドラマがある。誰か他人の物語だ。アルバムから目を挙げると埃っぽいガラスを張った窓から見える空は夕焼けに染まっている、そんな風情。物語だなあと思った。そうやってみると非常にロマンティックで、Convergeの荒廃して厳しい音の嵐の向こう側に垣間見える男っぽい(作家で言うならデニス・ルヘインだろうか)エモーションに通じるところはあると思う。整合されていない(定型化されていない)ノスタルジックさ、拡散していく美麗さは結構混沌としている。

綺麗でありつつもなんとも形容しがたい独自の音楽性を持っているのはさすが。ConvergeがConvergeと言う存在たりえているのはなぜかと言うことが少しわかるかもしれない。

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