2017年11月19日日曜日

ダン・シモンズ/エンディミオン

アメリカの作家のSF小説。
「ハイペリオン」シリーズの第3弾。順調に読み進めてまいりました。
上巻は新品で買えたのだが、下巻が品切れて中古で購入。

7人の巡礼たちの物語が終わって300年。人類はテクノコアと決別し、瞬間転移などテクノコア由来の技術の多くが使用できなくなり、人類の統合組織は崩壊。恒星間の距離が再び絶対的なものになり、移動に時間が掛かる分各惑星は断絶状態になり、独自の進歩を続けていくことになった。そんな第二期の宇宙史でヘゲモニー時代は虫の息だったカトリック教会がテクノコアの技術、人体を組成させる十字架の改良に成功。蘇生の際の人体劣化を克服し、人類にほぼ完全な不死を提供することであっという間に宇宙における人類の領域を征服していく。巡礼たちの物語も過去の伝説めいたものになりつつある”今”、伝説の舞台になった惑星ハイペリオンに生まれたロール・エンディミオンはなんとなく気に入らない、という理由からカトリックの洗礼(つまり不死)を拒否。自由気ままに暮らしていたが、ある日冤罪で死刑の憂き目に合うことに。窮地の彼を救ったのは伝説の巡礼のうち一人、「詩篇」を書いたマーティン・サイリーナスだった。彼はロールに対して人類の救世主となる巡礼の一人の子供である少女を守って銀河を救えという。

「ハイペリオン」シリーズは全部で4つの物語があるが(文庫だと全部上下分冊だから全部で8冊。)、一旦前作「ハイペリオンの没落」で物語的には一区切り。登場人物や設定は引き継ぎつつ、大きなブレイクスルー(人類の不死の獲得)と時間の経過(300年)を間にはさみつつ、また新しい物語がこの「エンディミオン」と続く「エンディミオンの覚醒」で書かれることになる。
読んでみると前作までとは色々変わっていて面白い。まず設定だけど転移ゲートがもたらす、瞬間転移技術(これはその仕組は人類は結局わからなかったけど便利だから使い続けていた、という設定が人類らしく適当で良い。)がなくなったこともあり、人類同士の連携が取れずに宇宙にいながら文明は大きく後退している。技術の間断ない共有というのが進歩に大きく有効であるということがよく分かる。前作ではヘゲモニーという組織が人類の音頭を取っていたが、これが崩壊し、とっくに捨て去ったはずの神権政治が取って代わっている。それも不死をちらつかせての反映だから(ココらへんにも人間の弱さ、都合の善さが表現されている)、実際ろくなもんでもないことははじめからわかっている。前作ではつましい求道者だったキリスト教徒は醜い権力者になっている。
それから物語の構造も変わっていて、過去の因縁がある7人の巡礼が集まり、過去を語りながら宇宙の欺瞞を暴きつつ、その後の世界を変える戦いに結実した重たい(もちろん褒め言葉で)前二作に比較すると、今回新しい主人公は良くも悪くも軽い男で重たい過去も因縁もなく、いわば巻き込まれ型と言うかたちで物語に参加することになる。小さい女の子と給仕のようなアンドロイド(彼は典型的な執事キャラで肌は真っ青という物語的な個性がある。スターウォーズにも通じる典型的な感じがある。)と悪い奴ら、つまりカトリック教会からただひたすら逃げていく、というシンプルな物語になっている。これによって娯楽性が大いにましており、あとがきにも書かれているとおり本当にただただ若者二人+アンドロイドの逃避行、ってことになっている。物語の面白さはその構造的な複雑さや逆に単純さにはよらない、というのは非常に面白い。逃避行は惑星巡り、と言うかたちになっており、全く道の新世界という要素と、現代のつまり読む人がいる今の世界に通じる基地の要素がうまく混ぜ合わさり、地球とは異なる環境(その中の幾つかは非常に極端、つまりすごく寒いとか、呼吸ができないとか)で再現されている。この物語はなんといってもこの異星、異世界といっていいほどの魅力がある別世界の描写が素晴らしい。想像力の限界に挑む、という新奇さだけでなくなんとなくノスタルジックな現代の残り香があるところがその魅力の秘密かと思う。
敵を張るカトリック教会サイドのキャラクターも魅力的で(ただし一部不満もあってそれは今読んでいる「エンディミオンの覚醒」の時に書くと思う。)物語を盛り上げる。

どうやら4部作でこの物語が一番好きだという人もいるらしい。多分前二作を読まなくてもわかると思うけど、可能だったらやはり「ハイペリオン」から読んだほうが良いと思う。

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