2017年11月26日日曜日

Wormrot/Voices

シンガポールのグラインドコアバンドの3rdアルバム。
2016年にEarache Recordsからリリースされた。
先日来日し、そのパフォーマンスで観客を魅了しまくったらしい。らしいというのはちょうど私はTDEPの公演と日程がかぶり身も心もマスコアに捧げたため彼らのステージは見ていないからだ。(平日公演もあったんだけど行けなかった。)ただ本当にちょっとやそっとの高評判ではなかったのでせめて音源だけでも、というわけで購入した次第。三人組のバンドで2007年に結成、2012年に活動を休止し、メンバーを一部入れ替えて再始動し作成したのがこのアルバム。

グラインドコアというのはデスメタルとハードコアがクロスオーバーしたジャンルで、ブラストビートが多用される、という説明は実は肝心な音楽性に対する正確な言及はない。ブラストビートを入れればなんでもグラインドコアになるかというとそれも違うわけで、そういった曖昧性もあってか”グラインド”というのは幅広く激しい音楽で使われている気がする。そんな中でピュアなグラインドコアバンド、というのは実はそういないのでは。というのもピュアであろうとすれば音楽的な選択肢の幅が広がり、強烈な個性が出しにくくなるからだ。例えば今はもうスマートフォンでも曲を作れるが、それでドラムのパートを全部叩かせると「ダダダダダダ…」となっておお!グラインドだ!となるが楽しいのは最初だけですぐににつまらなくなってしまう。ただの垂れ流しに飽きちゃうのだ。グラインドコアバンドはいかにたくさんグラインドするかというよりは、どうやってグラインドするか、どこでグラインドするか、むしろどうやってグラインドしないか、を突き詰めるようになるのではないか。前置きが長くなったが、このWormrotというバンドはそこを突き詰め、グラインドコアの表現の限界に果敢に挑もうとするバンドのようだ。
ベースレスのトリオ編成でもちろん基本的にはどの曲も異常に速く、そして短い。紛れもないグラインドコアだがその表現力が半端ない。まずはギターの音を意図的に軽くしている。重さは迫力を増すが、圧倒的に選択肢を阻めてしまう諸刃の剣ということだろうか。代わりに軽快なフットワークと流れるようななめらかな表現力がギターに付与されている。アイディアの塊のようなリフワークで、ブラストビートの上によく映える王道のスラッシュなリフはもちろん、溜めのある中速を彩るミュートを多用するリフ、ハードコア的なゴリゴリしたリフ、それからブラックメタル顔負けのトレモロリフにはやはり圧倒的に欠けているメロディの要素を補って余りある表情の豊かさ。普通ならリフとアイディアだけで4分とかそれ以上、もしかしたら複数の曲を賄えるくらいの量を1曲にそれも多くは1分前後の曲に圧縮している。なんという贅沢。なんという酔狂。だがそれが良い。代わりにともすると突っ走るだけのどんぐりの背比べに陥るグラインドコアという非常に尖ったジャンルに全く新しいバリエーションを生み出すことに成功している。
ギターに負けじと多彩な声で叫びまくるボーカル、そしてブラストを叩くだけでないドラムも三人の真剣勝負のような緊張感を煽ってくる。
”縛り”というのはあえて選択肢を絞ることだ。自らに課すルールと言っても良い。一見選択肢の削除は自殺行為に見えるが、実はルールを持ち出すことは表現を研ぎ澄ませ、出来上がってくるものを引き締めて面白くする。(例えばゲームのバイオハザードをナイフだけでクリアする、なんて緊張感のある縛りプレイですよね。逆に無限ロケットランチャーははじめはテンション上がるけど意外に面白くない。)厳格に自らを縛っているのに、こんなにも豊かな色が出せるとは非常に驚きだ。少なくとも音楽のジャンルでは何かが完成するなんてことはないんだな〜と思わせる。

ともするとどん詰まりになるようなグラインドコアというジャンルの壁をぶち壊すような快作。ライブの評判は本当すごかったからぜひまた見る機会があればな〜と思わずにはいられない。

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