2018年1月3日水曜日

Starkweather/Crossbearer/Into The Wire

アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアのメタルコアバンドの編集盤。1992年の1st「Crossbearer」にEPの音源をボーナストラックを追加した再発盤(1994年)、1995年の2nd「Into the Wire」、さらにスプリット音源とコンピレーション・アルバムに収録した曲を追加したもので、2015年にTranslation Loss Recordsからリリースされた。
Starkweatherは1989年に結成されたバンドでアルバムは前述の2枚を含めて4枚と、マイペースに活動を続けているようだ。
FBのメッセージによると「個性を剥奪された個人のための(この個人のため、というのは良い)孤立した音楽。内耳にとっての障害。原初の叫び療法を通した厭世的な内的告白。」とのこと。曲がりなりにもハードコアをやっているバンドにしてはちょっと珍しいスタンスである。ちなみにバンド名は1950年代の実在のスプリー・キラー(短時間に複数の場所で殺人を行った人のことをこう呼ぶとのこと。)Charles Starkweatherから取ったものだそうだ。(調べてみると俳優みたいに魅力的な風貌で驚く。)

前述の通り通常とはかなり異なったアプローチでハードコアを表現しているので、やはり中身の方も相当おかしい。メタルコアが流行った頃私は殆ど聞かなかった。なんとなくイメージ的にはエモい髪型をした人がゴリゴリから始まり、一転とてつもなくメロいサビに突入する音楽というイメージが有り、もちろんこれはメタルコアの上澄みを掬ったオーバーグラウンドのバンドのイメージにほかならないのだが、それなら別にはじめから別にやってもいいんじゃないかという感じだったのだ。(友人からは強くKillswitch Engageを勧められたのだが、今思うとちゃんと聞いておけばよかった。)実際この典型というのは批判があれど説明には手っ取り早いなと、改めてStarkweatherを聞いて思った。全然出てくる音は違うのだが、まあ大体ハードコアのゴリゴリとした音に、 クリーンボーカルを乗せるアプローチという風に(そもそもこの説明自体が適当すぎてあまり意味が無いんだけど)説明できる。とにかくソリッドな音だったオーバーグラウンドのメタルコアに比べれば、ざらついた粗野な音でゴリゴリというよりはガリガリした鈍器で殴るようなイメージだが。さらにただサビのための記憶に残らない騒音部というのではなく、ブレイクダウン含めて凝りに凝ったハードコアが展開されている。そしてそこに乗っかるクリーンパートが超曲者で、はじめ聞いたときはMr.Bungleが真っ先に頭に浮かんだ。あの変態Mike Patton(私は顔も含めて超好き)が好き勝手わめきまくるアヴァンギャルドでプログレッシブなハードロックバンドだ。まず声質がとても良く似ている。芝居がかってふざけているような、あの歌い方もそう。正直言ってハードコアでこれをやるのはやりすぎじゃなかろうか、と不安に思ってしまうくらいに独特の味わいがある。これは、なかなか…という何とも言えない表情になるのだが、待ってほしい。このアルバムは全部で2時間20分弱あるのだが、絶対2ndまでは聞いてほしい。1stは正直アヴァンギャルドなメタルコアで、両者の差異が妙に強調されてしまって、インパクトはある反面両者の要素がよく馴染んでいないように聞こえるのだが、2ndでその接合部は見事に癒着しており、絶妙でそして奇妙で奇形なメタルコアが展開されている。これはしばらく聞いて耳が慣れたせいもあるかも、そういう意味ではいわゆるスルメ盤だろうか。アヴァンギャルドとハードコアがなあなあにスケールが小さくなって落ち着いたわけではなく、むしろハードコアのゴリッゴリ感は2ndのほうが強い。もうこれは完全に残虐なハードコアだ。やはり完全に目が座っている系で殺しに来る低速が圧倒的に格好いい。(2枚めラストの「Taming Keches with Fire」のラストは露骨におかしい。)頭がおかしいんだな、という共通項にネジが何本か飛んでいるクリーンボーカルがしっくり馴染む。相乗効果で直接的な表現に向かいがちなメタルコアにはなかなかない”雰囲気”が演出されている。奇形なメタルコアの歪んだ影に浸るような、そんな不気味さがたまらない。そうなると冒頭に掲げたバンドのやや病的なステートメントが妙にしっくり来るではないか。

久しぶりに音源聞いて、「ふ〜む」となってからの「あら、あららららこれはヤバイ」って感じの体験ができて個人的には超良かったです。とにかく2nd(というか2枚め)が危険すぎる。是非どうぞ。おすすめ。

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