2018年2月11日日曜日

サミュエル・R・ディレイニー/ノヴァ

アメリカの作家の長編小説。

西暦3100年代。人類はその版図を宇宙に大きく広げ、それぞれの星系で文化を発展されていた。距離が離れればやはりそれぞれの文化の思惑でときには対立が発生するもの。地球を含むドレイコ(蛇竜)領に属するトライトンという星でサイボーグ船士マウスことポンティコス・プロヴェーキは特徴的な男に会う。銀河の大富豪ローク・フォン・レイ。美男だが醜い傷跡が縦方向に顔に走った異形の男に誘われ、他の何人かとロークの船「ロック」の船員として雇われる。ロークはやはり大富豪のレッド兄妹と因縁があり、莫大なエネルギーを持つ物質イリュリオンを取りに行くらしい。ローク一行の危険に満ちた冒険が始まる。

壮大なSFなのだが星間移動のシステムがきちんと説明されていなかったりとかなり特徴的だなと思った。作者ディレイニーは相当変わった人物らしく、「ダールグレン」を始めSFの枠に留まらないファンタジーやその他の領域に足をかけた様々な物語を書いているらしい。この「ノヴァ」もSFの体裁を取っているが、物語の足をすすめるのを時として妨げるくだくだしいSF的な説明は大胆に省いてかわりに破滅的な物語を船に乗せて、ロケット燃料に点火してクライマックスに叩き込むかのような勢いがある。
あとがきでも役者の伊藤典夫さんが述べているように神話的な意味合いがある物語で、個人的には呪われた男の話であり、爆発して進化していこうとする神と安定と停滞、そして死を司る神の終わりなき闘争の神話の一部にも思えた。中心にはローク・フォン・レイという魅力的だが頭のおかしい男と、彼と対立するやはり常軌を逸したレッド兄妹(ただし経済的な問題から端を発したいるところから始まり、妹との三角関係からいまいち脱却しきれないプリンセス・レッドはロークほどの神性が感じられないのが面白い。)の関係を、個性豊かだがあくまでも普通の人間のマウスとカティンの目を通して描いている。タロー(タロット)カードが象徴的で強い意味をもち、マウスの奏でる電子ハープが物語を導いてく、不思議で先進的なロマンスが見え隠れし、破局に一直線に突き進みながらも、未来の銀河の異様さにも目を向ける旅情はまさに王道のファンタジーとも言える。決して豊かで奇抜な設定のみに陥るわけではなく、物語の骨子は相克と対立と闘争なので、見た目の異様さに反して頭に入りやすい。
キャプテンロークのカリスマ性に心惹かれるのはなにもマウスたちだけではないが、とにかく彼というのは横溢するエネルギーが尋常ではなく、やはり人には思えない。名家の子息としての自身と傲慢、プライドと気負いなのか、それとも恋をした(?)レッド兄妹の片割れルビーへの執着なのか。それともただ似た境遇にあるプリンスへの反抗心、負けん気の発露なのか。イリュリオンを奪取し、今ある銀河の近郊を崩壊させんとする彼は正義のみかたというよりは、むしろただの無軌道な反逆者にも見える。闘争を運命づけられ、衝突と不幸を周囲に撒き散らす彼はやはり呪われた男だ。
タイトルにもなっている「ノヴァ」とはイリュリオンが生まれる星の大爆発である。(いわゆるスーパーノヴァとかとは少し違うやはり作者独特のものらしい。)善悪の彼岸を超えた異形の物語が、星の死である大爆発に収束していく。一体その先に何が残り、冒険者たちが何を得られたのかというのは、非常に面白いところだと思う。

非常に面白くて手に汗握って読んだ。想像力の限界に挑む知的なSFがついつい忘れがちな自暴自棄な激情がほとばしっている。作者の違う本も読んでみようと思っている。

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